遺言執行者がいる場合の相続登記について解説
2022.09.02 相続登記(名義変更)相続が発生し、遺言が残されていた場合に、その内容に従ってさまざまな相続手続きをするのが「遺言執行者」です。遺言執行者に就任すると、相続財産の調査や財産目録の作成などを行い、「相続登記」も業務に含まれます。
2019年7月1日の相続法(民法)改正までは「相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)」では登記手続きの権利や義務は有しないとされ、登記手続きは相続人自ら行っていましたが、法改正によって遺言執行者にも相続登記の権限があると明記されました。
本記事では、遺言執行者の業務内容をはじめ、相続登記の方法や業務を怠るリスクについて解説していきます。遺言執行者に指定され、登記について悩んでいる方は参考にしてください。
目次
遺言執行者とは?
「遺言執行者」とは、遺言書の内容を実行するために必要な手続きを行う人です。ここでは、遺言執行者について詳しく説明していきます。
遺言執行者の業務範囲
遺言執行者の主な業務内容は、以下の通りです。
- 遺言内容の通知
- 相続人の確認
- 相続財産の調査
- 財産目録の作成・交付
- 遺言の執行
- 業務の完了報告
相続人の状況や相続財産の内容によって、業務が異なることもあります。
・遺言内容の通知
遺言執行者に選定されて承諾した場合には、相続人全員に遺言内容を通知します。
・相続人の確認
被相続人の出生から死亡するまでの戸籍謄本を確認し、相続人を確定させます。
・相続財産の調査
被相続人の財産を調査します。財産は現金や預貯金、不動産、株などの積極財産(プラス財産)です。
・財産目録の作成・交付、遺言内容の執行
相続財産の調査が完了したら財産目録を作成し、相続人全員に送付します。財産目録の送付後は、預貯金口座の解約や相続登記、株式の名義変更などを遺言内容に従って執行していきます。
・業務の完了報告
すべての業務が終了したら、相続人全員に遺言執行の手続きが完了した旨を手続きの経過内容も添えて書面で報告します。
遺言執行者の選び方となれる人
遺言執行者は、以下の方法で選びます。
- 遺言での指定、遺言で第三者に指定を委託する
- 利害関係人の請求によって家庭裁判所が選任する
遺言執行者は「未成年」「破産者」以外であれば、親族や知人など誰でもなることができます。法人に依頼することも可能です。
「誰でもなれる」ので簡単な業務であるかのように感じますが、遺言執行者は戸籍調査や相続登記など、知識が必要になる業務を多く行います。
そのため、専門知識や相続手続きの経験がない人を選定すると業務が滞る可能性が高く、時間もかかってしまう可能性が高いです。遺言の執行をスムーズに行いたいのであれば、弁護士や司法書士に依頼した方が良いでしょう。
遺言執行者を選定するメリット
遺言執行者を選定するメリットは、遺言内容の実行が円滑に進みやすいことです。相続人に代わり遺言執行者が遺言の内容を実現してくれるので、遺産の承継がスムーズに進みます。
それに対して遺言執行者が定められていない場合、金融機関で手続きを行う際には、相続人全員の署名および実印を押した相続届出書や印鑑証明書が必要です。
遺言執行者を決めておけば相続人の手続きの手間がなくなり、スムーズに相続手続きを完了させることができます。
遺言執行者の報酬
遺言執行者に支払う報酬の相場は、財産総額の1%〜3%です。
相続人の親族や代表者などが遺言執行者を務める場合には、遺言書に報酬の記載がないケースもあります。記載がない場合には、基本的には「無報酬」となります。ただし、遺言執行者に報酬を得たいという希望がある場合には相続人同士で話し合って決めることになり、話し合いで決まらないときには、裁判所に判断を委ねることも可能です。
弁護士や司法書士、金融機関などに遺言執行を依頼する場合にも報酬の支払いは発生し、執行手続きの難易度が高い場合や複雑な手続きが必要になるときには、報酬が高くなることがあります。また報酬に加えて、相談料や日当、交通費なども加算されるので、専門家に依頼する際には必ず事前見積もりを依頼しましょう。
遺言執行者が相続登記をすることは可能?
相続遺産に不動産が含まれる場合には相続登記手続きが必要になりますが、遺言執行者が登記手続きをして良いものか疑問に思う方も多いでしょう。結論から言うと、遺言執行者は「特定財産承継遺言」があれば、相続登記をすることが可能です。
特定財産承継遺言について
「特定財産承継遺言」は、特定の財産を特定の相続人に相続させる遺言です。
例えば「不動産Aを長女に、不動産Bを長男に相続させる」というように、対象物と相続人を特定させます。
特定財産承継遺言がある場合には、遺言の効力発生時に所有権が指定された相続人に帰属します。そのため、一般的な相続とは異なり遺産分割協議の必要がなくなります。
しかし、特定財産承継遺言には以下のような問題点もあります。
- 遺言書の書き方によって解釈が難しいケースがある
- 遺留分を侵害する恐れがある
- 配偶者居住権の設定はできない
特定財産承継遺言は、被相続人の意志を反映させ、特定の相続人に財産を譲りたい場合に有効な方法です。一方で、遺言の書き方が非常に難しく、内容が曖昧な場合には解釈の違いによって相続人の間でトラブルになる恐れもあります。
2019年7月1日以後の遺言から可能
特定財産承継遺言は、2019年7月1日より前 は「相続させる旨の遺言」と呼ばれ、遺言執行者であっても登記手続きすべき権利も義務も有しないとされていたため、登記手続きは相続人が行っていました。
「相続させる旨の遺言」があったときには、相続人は被相続人の死亡後すぐに不動産を承継すると考えられていたからです。
しかし、改正により「特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)」があったときには、遺言執行者が相続に関する登記手続きをできることが明記されました。そのため、特定財産承継遺言がある際には遺言執行者が代表して相続登記をできます。ただし、遺言の作成日が2019年7月1日より前のものは適用にならない点に注意が必要です。
遺贈登記(遺贈による所有権移転登記)は遺言執行者でも可能?
特定財産承継遺言があれば、遺言執行者と相続人は相続登記が可能なことをお伝えしました。では、遺贈登記(遺贈による所有権移転登記)は遺言執行者でもできるのでしょうか。
遺贈登記は、遺言執行者または相続人全員と、受遺者が共同で申請を行います。相続法が改正される前までは相続人による登記手続きも認められていましたが、改正後は遺言執行者のみが登記できることが明確化されました。
遺言執行者が選定されていない場合は、遺贈登記の申請に相続人全員の協力が必要になります。
相続登記の申請方法
遺言執行者が相続登記を行う場合、どのような流れで手続きを進めるのでしょうか。特定財産承継遺言によって不動産を相続人名義に変更する場合の、必要書類と手順を見てみましょう。
【必要書類】
- 相続登記申請書
- 遺言書
- 被相続人の死亡の旨の記載がある戸籍(除籍)謄本
- 不動産を取得する相続人の戸籍謄本
- 不動産を取得する相続人の住民票の写し
- 不動産の固定資産評価証明書
- 委任状(司法書士に依頼する場合)
遺言書による相続の登記の場合、原則被相続人の出生まで戸籍を遡る必要はないので、死亡記載のある戸籍(除籍)謄本のみ用意しておきましょう。また、遺言書のある相続登記を申請する場合には、遺言書の提出が必要ですが、登記完了後に返却されます。
【申請の手順】
必要書類に目を通したら、申請の手順を見ていきましょう。
- 必要な書類をすべて用意する
- 相続登記申請書・必要書類の原本コピーはまとめてホチキスで止める
- 必要書類の原本は、クリアファイルに入れてまとめておく
- 法務局に申請する(持ち込み・郵送)
- 登記完了予定日を過ぎたら法務局へ書類を取りに行く、または郵送してもらう
手順のみを見れば難しくないように思えますが、相続登記は必要な書類が多く、書類に不備があればスムーズに申請ができません。遺言書が民法で定められた要件を満たしていない場合には、登記を通してもらえない可能性もあります。現時点では、相続登記に定められた期間はありません。
遺言執行者が業務を怠った場合
遺言執行者に就任したにも関わらず業務を怠った場合、以下のような対処をされる可能性があります。
- 家庭裁判所に対して解任請求をされる
- 損害補償金を請求される
解任請求をされる
遺言執行者が業務をこなしていない場合、相続人や受遺者は家庭裁判所に対して遺言執行者の解任請求をすることができます。
民法上では「遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるとき(民法1019条1項)」とされていますが、実際にはどのようなことが起こると家庭裁判所に対する解任請求をされるのでしょうか。
具体例を見てみましょう。
- 遺言執行者として業務を果たしていない
- 一部の遺言執行しか果たしていない
- 相続財産を不正に使っている
民法に記載があるように、規定で定められた任務を果たさないとき、不正に財産を使っている場合は家庭裁判所に解任される可能性があります。
民法では遺言執行者の義務に関して、以下のように規定しています。
“・遺言執行者は就任後、直ちに任務を行わなければならない
・任務を開始したときには遅滞なく遺言の内容を相続人に通知しなければならない
・遺言執行者は、遅滞なく相続財産目録を作成して相続人に交付しなければならない
・受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う
・受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない
・受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても、同様とする
・受任者は、委任者に引き渡すべき金額又はその利益のために用いるべき金額を自己のために消費したときは、その消費した日以後の利息を支払わなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。 “
これらの規定に反した場合は、解任請求を受ける可能性があることを覚えておきましょう。
損害賠償金を請求される
遺言執行者が業務を怠り、相続人や受遺者の利益を不当に侵害した場合には、損害賠償金を請求される可能性もあります。
具体的には「業務を怠った結果、遺留分損害請求権の時効期間が過ぎた」などが挙げられ、相続人に発生した損害に対しての賠償金を支払うことになるでしょう。
遺言執行者に就任すると、執行業務を怠った場合に解任されるだけではなく損害賠償金を請求される可能性もあります。業務を果たせば報酬を得られますが、義務も多く負担が大きいことは確かです。
遺言執行者に選ばれても辞退することはできる?
遺言書で遺言執行者に指定されていた場合、就任前であれば辞退することができます。
遺言執行者は指定されたからと言って自動的に就任するものではなく、あくまで自分の意志で就任するからです。就任前に辞退をすれば、遺言執行者になることはありません。
辞退の方法に決まりはないので、もし辞退をしたいと考えるのなら、相続人全員に辞退をする旨を書面で伝えましょう。
ただし、一度就任してしまった場合には「辞任」となり、家庭裁判所の許可が必要です。
辞任の正当な理由をもって家庭裁判所に申し立てを行い、辞任の許可を得てからの辞任となります。「辞退」と「辞任」では、手続きが異なると覚えておきましょう。
遺言執行者を専門家に依頼するメリット
前述のように、遺言執行者は弁護士や司法書士などの専門家に依頼することも可能です。遺言執行者を専門家に任せるメリットを見てみましょう。
- 手続きが円滑に進む
- 相続人同士のトラブルを防げる
遺言執行者を専門家に依頼すれば、遺言の執行がスムーズに進みます。相続方法が指定されていたり、特定財産承継遺言や遺贈があったりなど遺言の内容が複雑な場合には、遺言執行者に大きな負担がかかります。
しかし、弁護士や司法書士などの専門家に任せておけば、相続人への通知や遺言執行の手続きで悩むことはありません。また、遺言の内容によっては相続人同士での対立・紛争などが起こるケースもあります。
中立で専門家である弁護士や司法書士が相続手続きを進めれば、トラブルを未然に防ぐことができるでしょう。
手続きが滞るリスクや対立が起こるリスクなど、あらゆるリスクを回避するという意味でも、遺言執行者を専門家に任せるメリットは大きいと言えます。
まとめ
相続法改正によって遺言執行者の権限や義務が明確化されたことにより、責任も大きなものとなりました。
業務のなかでも相続登記は専門的な知識を求められるため、遺言執行者の負担が大きい手続きです。自分には荷が重いと不安に思ったら、辞退をして専門家に任せる方法もあります。一度、弁護士や司法書士に相談してみてはいかがでしょうか。
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