法定相続人にあたる人は誰?それぞれの相続分は?
2022.09.02 遺産相続どなたかが亡くなった場合、一般的には亡くなった方の財産を誰かが引き継ぐことになります。それが「相続」です。しかし、亡くなった方(以下「被相続人」)の財産を相続することは、誰でもできるわけではありません。たとえ血縁関係がある兄弟姉妹であっても、被相続人の財産を相続できないことはあります。
相続が発生した場合、まずは法律で被相続人の財産を相続できるとされている「法定相続人」を確認することが非常に重要です。では、法定相続人とはどういった人を指すのでしょうか?こちらの記事では、法定相続人のいろはについてみていきます。
目次
法定相続人の概要
法定相続人とは、文字通り「法で定められた相続人」のことです。特に事情がない場合、被相続人の法定相続人となる者が被相続人の財産を相続します。そのため「法定相続人は誰なのか」を確定させることが、相続のときの優先事項となります。
法定相続分とは
被相続人の家族構成にもよりますが、法定相続人は複数いる場合がほとんどです。法定相続人が1人しかいない場合は、その人が被相続人の財産を相続すれば問題ありません。
しかし複数の法定相続人がいる場合は、誰がどのくらいの財産を相続するかで争いになることがあります。そういった争いを未然に防ぐために、それぞれの法定相続人が相続できる割合も法律で定められています。この割合のことを「法定相続分」と言います。
推定相続人とは
法定相続人とよく似た言葉に「推定相続人」という言葉があります。
推定相続人とは「仮に今誰かが亡くなった場合、亡くなった人の財産を相続できる権利を持つ人」のことです。被相続人が存命している間に「推定相続人」だった人が、被相続人が亡くなった後は「法定相続人」になると考えてください。
法定相続人となる者
ここからは法定相続人に該当する人や、法定相続分などについて述べていきます。まず法定相続人とは、被相続人と以下の関係にある者です。
配偶者
被相続人の配偶者がいる場合、配偶者は常に法定相続人となります。ここで言う配偶者とは「法律上の配偶者」のことであり、事実婚や内縁関係の者は法定相続人になりません。人生の大半を被相続人と歩んできたような結びつきの強いパートナーであっても、法律上の婚姻関係にない場合は法定相続人になれないことに注意が必要です。
直系卑属(子とその代襲相続人)
まず「卑属」とは、亡くなった方からみて「子」「孫」「ひ孫」など、後世の人のことを指す言葉です。家系図で言えば、被相続人より下の方にいる人達が卑属に当たります。
そして「直系」とは、親子関係のように血筋が一直線に繋がっている関係を指します。自分の両親や祖父母、自分の子供や孫などは、直系の親族に該当します。直系の対となる言葉は「傍系」で、兄弟姉妹のことです。つまり家系図上で枝分かれしているような関係が、傍系の親族に当たります。
相続における「直系卑属」とは、亡くなった方からみて直接の子や孫、ひ孫、玄孫などのことです。ただし被相続人に子がいる場合、子は法定相続人になりますが、原則として孫以降の世代は法定相続人になりません。
被相続人の孫が法定相続人となるのは、被相続人が死亡した時点で、被相続人の子も亡くなっているような場合です。この場合、被相続人の子が持っていた相続権を被相続人の孫が受け継いで、被相続人の財産を相続します。これを「代襲相続」と呼び、代襲相続ができる人のことを「代襲相続人」と言います。
直系卑属の場合、被相続人の死亡時に、被相続人の子は既に他界していて孫が存命しているケースでは孫が、孫が他界しているケースではひ孫が…と言った具合に、何度も代襲相続が繰り返されます。代襲相続は実際の相続でもしばしば発生するため、言葉の意味を覚えておきましょう。
直系尊属
被相続人に直系卑属がいない場合、被相続人の直系尊属が法定相続人となります。具体的には、まず被相続人の父母が法定相続人になります。
もし父母の両方が既に他界している場合は祖父母が、父母も祖父母も既に他界している場合は曾祖父母が…という順番で法定相続人となる方式です。注意点としては、被相続人に「最も近い親等の直系尊属のみ」が法定相続人であるということです。
例えば、被相続人の父母のうち、父は既に他界しているが、母と祖父母は存命している場合を考えてみましょう。このケースでは親等が最も近い「被相続人の母だけ」が法定相続人になります。この場合、祖父母は法定相続人になりません。
兄弟姉妹とその代襲相続人
被相続人に直系卑属も直系尊属もいない場合は、被相続人の兄弟姉妹が法定相続人になります。そして被相続人の死亡時に兄弟姉妹が他界していた場合、兄弟姉妹の子、被相続人から見て甥や姪に当たる人物が兄弟姉妹の相続分を代襲相続します。
ただし、被相続人の兄弟姉妹および甥や姪が死亡しているときは、甥や姪の子が法定相続人になることはありません。
直系卑属の場合は代襲相続のさらに代襲相続、即ち「再代襲」が何度も発生します。これに対して傍系血族の場合、法定相続人になれるのは兄弟姉妹およびその子である「甥や姪まで」に限られます。つまり傍系血族で代襲相続が発生するのは一度限りであり、注意が必要です。
なお、法律の世界で「兄弟姉妹」と書いてある場合、「きょうだいしまい」ではなく「けいていしまい」と読むことが一般的です。法律の専門家と話していると「けいていしまい」という言葉が出てくることもあるため、混乱しないように予め覚えておきましょう
各法定相続人の法定相続分
法定相続人についての理解が深まったところで、それぞれの法定相続分をご紹介します。
まずは上記のルールに従って、誰が法定相続人になるかを改めて確認しましょう。上記のルールに従うと法定相続人は以下のようになります。
・配偶者がいれば、配偶者は必ず法定相続人
・直系卑属がいれば、配偶者+直系卑属が法定相続人(直系尊属や兄弟姉妹は相続できない)
・直系卑属はいないが直系尊属がいる場合は、配偶者+直系尊属が法定相続人(兄弟姉妹は相続できない)
・直系卑属も直系尊属もいないが兄弟姉妹がいる場合は、配偶者+兄弟姉妹が法定相続人
・配偶者がいない場合は、上記から配偶者を除外した優先度で法定相続人を決める
配偶者がいる場合の法定相続分
配偶者がいる場合、配偶者以外の法定相続人の存在によって、各自の法定相続分は以下のように変動します。
A.配偶者と直系卑属の場合=配偶者が2分の1、直系卑属が2分の1
B.配偶者と直系尊属の場合=配偶者が3分の2、直系卑属が3分の1
C.配偶者と兄弟姉妹の場合=配偶者が4分の3、直系卑属が4分の1
これだけではわからないのと思うので、具体的な例を出しながら説明します。なお、以下の例では被相続人の遺産総額が「600万円」と仮定します。
A.配偶者と直系卑属の場合
配偶者の法定相続分が遺産総額の2分の1なので、配偶者が600万円の2分の1に当たる300万円を相続します。その後、直系卑属全員が残りの300万円を相続します。
仮に直系卑属が「被相続人の子3人」だとすると、300万円を3等分した100万円が直系卑属各自の相続分となります。なお「被相続人の子は他界しているが孫やひ孫がいる」という場合は、前述の通り代襲相続が発生します。
B.配偶者と直系尊属の場合
配偶者の法定相続分が遺産総額の3分の2なので、配偶者が600万円の3分の2に当たる400万円を相続します。そして、残りの200万円が直系尊属全員の相続分です。
もし直系尊属が「被相続人の父母」の場合、父が100万円、母が100万円を相続します。
仮に父が既に他界していた場合、母が単独で200万円を相続できます。
直系尊属のうち父母はいないが祖父母が存命という場合でも、このルールに基づいて直系尊属の法定相続分が決まります。祖父母が他界しているが曾祖父母はいるというケースでも、同じ考え方で相続が行われます。
C.配偶者と兄弟姉妹の場合
まず配偶者が法定相続分(遺産総額の4分の3)に当たる450万円を相続します。その後、残りの150万円を被相続人の兄弟姉妹全員で等分します。被相続人に兄弟姉妹が3人いる場合は、150万円を3等分した50万円が各自の取り分となります。
配偶者がいない場合の法定相続分
ここまで「配偶者+他の法定相続人」のケースを紹介してきました。
では、配偶者がいない場合の法定相続分はどのようになるのでしょうか?配偶者がいない場合の法定相続分は簡単で、それぞれの法定相続人が被相続人の財産を等分して相続するだけです。
例えば、被相続人に600万円の財産があり、被相続人に子Aと子Bがいるとします。
この場合は600万円を2等分した300万円を、AとBがそれぞれ相続します。また、上記の例で被相続人の死亡前にBが他界しており、Bには子が2人(CとD)いるとします。
CとDは被相続人から見て孫に当たります。こういったケースでは、まずAが300万円を相続します。CとDはBの代襲相続人なので、Bの相続分である300万円をCとDが2人で相続することになります。その後、CとDは300万円を2等分した150万円をそれぞれ相続します。
配偶者しかいない場合の法定相続分
法定相続人が被相続人の配偶者しかいない場合は、配偶者が被相続人の財産を全て相続します。配偶者以外の法定相続人がいないので当然ですが、念のため記載します。
各法定相続人の遺留分
「遺留分」とは、各法定相続人に保障された最低限の相続分のことです。
例えば、被相続人が「全財産を隣の家の人に寄付する」という遺言を残したとします。
この遺言の内容が実行されれば、法定相続人は財産を全く相続できなくなってしまいます。そこで登場するのが遺留分です。法定相続人は「その遺言は私の遺留分を侵害している!」として、遺留分侵害額請求というものを行い、自分の遺留分相当額を取り戻して確保できます。遺留分は相続人にとって重要なものですが、遺言を作成する被相続人にとっても大きな意味を持ちます。
もし遺留分を理解していないと、自分が作成した遺言によって相続人の遺留分を侵害する恐れがあるからです。相続人の遺留分を侵害する遺言をした場合、相続人と財産を譲り受けた人との間で相続争いが起きてしまうリスクが高くなります。
また、せっかく遺言によって財産を譲り受けた人も、相続人から遺留分侵害額請求を受けた場合に遺留分相当額を返還しなければならず、どちらにも手間と時間がかかってしまいます。このようなトラブルを防ぐために、遺言書を作成する前に遺留分についての理解を深めておきましょう。
各法定相続人の遺留分の割合
一言で表現すると、「その法定相続人が持つ法定相続分の2分の1」が遺留分となります。しかしケースごとに法定相続分が異なるため、上記の表現ではわかりづらいことが多いです。
以下に具体例を挙げながら解説します。
法定相続人が配偶者のみの場合
法定相続人が配偶者だけの場合、被相続人の遺産総額の2分の1が配偶者の主張できる遺留分です。
遺産総額が600万円ならば、遺留分相当額は300万円です。
法定相続人が配偶者+直系卑属の場合
配偶者の遺留分は遺産総額の4分の1、直系卑属も同じく4分の1です。
ただし直系卑属は全員で4分の1なので、直系卑属の法定相続人(例えば被相続人の子)が2人いるようなケースでは、1人当たり8分の1しか遺留分を主張できません。
法定相続人が配偶者+直系尊属の場合
配偶者の遺留分は遺産総額の3分の1、直系尊属の遺留分は6分の1です。
直系尊属全員で6分の1なので、父母(または祖父母など)が両方とも存命の場合、1人当たりの遺留分は12分の1となります。
法定相続人が配偶者+兄弟姉妹の場合
兄弟姉妹に遺留分はありません。
そのため配偶者のみが遺留分を獲得します。割合は「法定相続人が配偶者のみの場合」と同じ、遺産総額の2分の1です。
法定相続人が直系卑属のみの場合
この場合は遺産総額の2分の1が直系卑属全体の遺留分です。この2分の1を法定相続人の人数でさらに等分します。
法定相続人が直系尊属のみの場合
遺産総額の3分の1が直系尊属全体の遺留分です。
やはり法定相続人全員で等分するため、父母の双方が存命なら1人当たり6分の1ずつ、片方のみ存命なら単独で3分の1の遺留分を持ちます。
法定相続人が兄弟姉妹のみの場合
兄弟姉妹に遺留分があると勘違いする人が多いので繰り返しますが、兄弟姉妹に遺留分はありません。
兄弟姉妹は幼少期から被相続人と多くの時間を過ごすケースが多いため、相続でも優遇されると思われがちですが、実際の相続ではかなりの後順位となってしまいます。
遺留分と代襲相続
代襲相続人にも遺留分が認められています。
例として、被相続人に配偶者と子Aと子Bがおり、子Bは既に亡くなっているものの、子Bの子(被相続人の孫)である孫Cと孫Dがいるというケースでそれぞれの遺留分を説明します。
配偶者+直系卑属のケースに則り、配偶者の遺留分は遺産総額の4分の1です。
子Aと子Bは、4分の1を等分した8分の1がそれぞれの遺留分となります。しかし、子Bは既に他界しているため、孫Cと孫Dが子Bの遺留分を代襲相続します。
子Bの遺留分である8分の1を孫Cと孫Dで等分するため、孫それぞれの遺留分は16分の1となります。
こんな場合はどうなる?~迷いやすいケース~
実際の相続がここまでの例に当てはまるケースであれば問題ないのですが、現実の人間関係は複雑です。離婚を繰り返した人や養子がいる人も多いでしょう。
ここからは「こういった場合はどうなるの?」と悩む人が多いケースをピックアップしながら解説していきます。
養子、および養子の子
養子は被相続人と血が繋がっていませんが、実子と同じ扱いです。では、養子の子、つまり被相続人から見て孫に当たる人物は、被相続人の財産を代襲相続できるのでしょうか?これは養子の子が産まれるタイミングで決まります。
養子との養子縁組の後に養子の子が産まれた場合、養子の子は代襲相続の権利を持ちます。しかし、養子縁組の前に産まれた養子の子は、代襲相続の権利がありません。養子縁組のタイミングで、権利の有無が異なるため注意が必要です。
なお、養子には「普通養子」と「特別養子」があります。普通養子は、実親と養親の両方の法定相続人になることが可能です。一方、特別養子は実親との関係が失われてしまうため、実親の法定相続人になることはありません。
連れ子
被相続人が連れ子の親と婚姻しただけでは、連れ子には相続権が発生しません。仮に連れ子と同居して実の親子のように暮らしていても、そのことと法律関係は別問題です。
連れ子を法定相続人にする方法としては、連れ子と養子縁組をすることが挙げられます。養子は実子と同じ扱いとなるため、養子となった連れ子は被相続人の死後に法定相続人となることができます。
離婚した相手との間にできた子
かつての配偶者との間にできた子は、その配偶者と離婚した後であっても実子と同じ扱いです。つまり、法定相続人になる権利を有します。
再婚して新しい配偶者との間に子ができた場合、過去のパートナーとの間にできた子と現在の配偶者との間にできた子が存在することになりますが、どちらの子も法定相続人となります。また、どちらの子についても同じ法定相続分を有します。これは相続争いのリスクが高くなるパターンの1つでもあります。
離婚した配偶者
被相続人と離婚した配偶者は、法定相続人になれません。
離婚した時点で、被相続人の元配偶者は法定相続人から外れます。法定相続人になれる配偶者は、被相続人が死亡した時点で婚姻関係にある者に限られます。
胎児
被相続人の死亡時に胎児である者は、法定相続人になることができます。
例えば、既に子が2人いる被相続人がおり、配偶者のお腹に胎児がいるとします。ここで被相続人が亡くなった場合、配偶者+子2人に加えて、出生することを条件として胎児も法定相続人となります。
法定相続分は配偶者+直系卑属の場合と同様なので、配偶者が遺産総額の2分の1を継ぎ、2人の子と胎児がそれぞれ6分の1ずつを相続します。ただし、胎児が出生しなかった場合、その胎児は法定相続人になることができません。
遺言書でトラブル予防&相続人の指定が可能
以上が、法定相続人や法定相続分、遺留分などについての解説です。特に遺言がない場合、法定相続人が法定相続分に則って相続を行います。
相続人が話し合い、全員が納得して合意すれば、法定相続分に関係なく自由に遺産を分割して相続することも可能です。ただし話し合いで揉めることも多いため、相続トラブルを防止する意味でも、遺言書を作成しておくことをおすすめします。
遺言を活用すればそれぞれの相続人に渡したい財産の範囲をある程度自由に指定することができますし、法定相続人以外の人に財産を残してあげることも可能です。遺言書の作成にあたっては、専門家と相談しながら、法的に有効かつ相続争いのリスクを抑えつつ自分の希望に合った内容のものを作成することが大切です。
また、遺言の内容を実現するのも手続きが煩雑で専門的知識を要する場合もあるので、相続人がスムーズに遺言の内容が実現できるように、法律家などの専門家に依頼をして、遺言執行を選任しておくなどの方法があります。相続の生前対策を考えている人は、司法書士法人みどり法務事務所へご相談ください。
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