相続土地国庫帰属制度とは?制度の申請要件や手順、土地を手放す選択肢を確認しておこう
2023.05.19 遺産相続不要な土地を手放したい場合、寄付や売却が、相続時であれば相続放棄という手段があります。
しかし、価値がない土地であれば寄付や売却はなかなか受け入れてもらえず、相続放棄は土地以外の財産の権利も放棄することになり、土地の手放すことは容易ではありません。
これにより、不要な土地の管理や相続手続きの放置による所有者不明の土地が発生し、社会問題になっています。
この対策として、令和5(2023)年4月27日から「相続土地国庫帰属制度」が開始されました。
本記事では、この相続土地国庫帰属制度の概要を解説していきます。
目次
1.相続土地国庫帰属法とは?
相続した土地を国に引き渡せる制度
相続土地国庫帰属制度とは、相続などにより土地の権利を取得した人が、その権利を手放して土地を国庫に帰属させる制度です。
冒頭でも触れた通り、所有者不明の土地の対策として、2023年4月27日から開始される新しい制度です。
この制度を利用するには、申請する人の要件、対象となる土地など一定に要件を満たす必要があります。
次項以降、この要件について詳しく解説していきます。
制度を利用できる人は?
相続土地国庫帰属制度を利用できるのは次の人です
- 相続により土地を手に入れた人
- 相続人への遺贈により土地を手にいれた人
※遺贈とは遺言によって財産を処分することです
このように、制度を利用できるのは相続人が相続または遺贈により土地を取得した場合に限ります。生前贈与や売買で土地を取得した場合は、相続人であっても制度を利用することはできません。
ただし、相続または遺贈により土地を取得した相続人と共有状態であれば、共有者全員で申請することにより制度を利用することができます。
制度を利用する要件は?
相続土地国庫帰属制度を利用するためには、相続人としての要件を満たす以外に、土地にも複数の要件を満たしている必要があります。
まず、土地が次の5つのいずれにも当てはまらないことです。一つでも当てはまる場合は、申請の段階で却下されてしまいます。
- 建物がある土地
- 担保権や使用収益権が設定されている土地
- 他人の利用が予定されている土地
- 特定の有害物質によって土壌汚染されている土地
- 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地
さらに、次の5つのいずれかに該当すると認められると、申請が承認されません。
- 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
- 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
- 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
- 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
- その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
以上の10のいずれにも該当していなければ、申請は承認されます。この却下・不承認される個別の土地の詳細については、次項以降で解説していきます。
2.相続土地国庫帰属制度の申請が却下されるケース
建物がある土地
土地に建物があると管理コストがかかり、また、老朽化により建て替えや取り壊しが必要となるため申請することができません。
担保権や使用収益権が設定されている土地
抵当権や賃借権など、担保権や仕様収益県が土地に設定されていると、国庫に帰属した後に担保権の実行により国が権利を失うこともあるため、申請することはできません。
他人の利用が予定されている土地
通路のように、土地の所有者以外の人が土地を利用している場合、その人との調整が必要となるため申請することができません。
特定の有害物質によって土壌汚染されている土地
土地が有害物質によって汚染されている場合、汚染の除去に費用がかかるため申請することはできません。
境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地
隣接する土地と境界や権利が明らかでない土地は、土地を管理するうえで隣接地所有者と調整や障害が生じるため、申請することはできません
3.相続土地国庫帰属制度の申請後に不承認となるケース
一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
一定の勾配・高さの基準は、勾配が30度以上であり、かつ、高さが5メートル以上です。
土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
管理・処分を阻害する有体物の一例は、次の通りです
- 果樹園の樹木
- 民家や行動の付近に存在する、放置すると倒木の恐れがある樹木
- 廃屋
- 放置車両
土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
除去しなければいけない有体物の一例は、次の通りです
- 産業廃棄物
- 建築資材
- 建物の基礎部分
- 古い水道管
- 浄化槽
- 井戸
- 大きな石
隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
争訟によらなければ管理・処分ができない土地の一例は、次の通りです
- ほかの土地に囲まれて行動に通じていない土地
- 池、河川、水路、海などを通らなければ行動に出られない土地
- 崖があって土地と行動に高低差がある土地
- 不法占拠者がいる土地
その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
過分な費用・労力がかかる土地の一例は、次の通りです
- 土砂崩れなどの災害により、周囲に被害を生じさせる恐れを防止する措置が必要な土地
- 野生動物により周辺の人や農作物に被害を生じさせる土地
- 間伐や造林など国による整備が必要な森林
4.相続土地国庫帰属制度を利用するときにかかる費用
相続土地国庫帰属制度を利用するには、申請時に「審査手数料」が、審査が承認された後に土地を管理するための「負担金」を納付する必要になります。
・審査手数料 土地一筆当たり14,000円
申請時に収入印紙を申請書に貼って納付します
・負担金
負担金は宅地、農地、森林、その他の土地の4つに区分されます。
宅地 | 原則20万円 |
農地 | 原則20万円 |
森林 | 面積に応じて算定 |
その他 | 20万円 |
宅地と農地の負担金は原則20万円ですが、一定の要件を満たすと別の算定式が基準となります。詳細は以下の法務省のHPを参照してください。
・法務省による負担金の概要
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00471.html
5.相続土地国庫帰属制度の手続きの手順
相続土地国庫帰属制度の大まかな流れは、次の通りです。
①事前相談 → ②申請書の作成・提出 → ③申請書の作成・提出 → ④承認・負担金の納付 → ⑤国庫帰属
法務局へ相談に行く
制度の利用を考えている方は、まず初めに、手放したい土地が制度の対象となるか法務局で相談をしてください。
相談をする際は、法務局手続案内予約サービスで相談の予約を受け付けています。相談できる時間は限られているので、相談をする際は、事前にチェックシートや資料を準備しておくと良いでしょう。
・事前相談チェックシート
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00498.html
・必要な資料
登記簿謄本
法務局で取得した地図または公図、及び地積測量図
土地の測量図面
土地の状況・全体が分かる画像・写真
・法務局手続案内予約サービス
https://www.legal-ab.moj.go.jp/houmu.home-t/top/portal_initDisplay.action
申請書類を作成して提出する
申請書を作成し、14,000円分の収入印紙を貼ったうえで、土地を管轄する法務局に提出します。
具体的な申請書の記載や申請方法は、以下のパンフレットの27ページ以降を参考にしてください。
・法務省による相続土地国庫帰属制度パンフレット
https://www.moj.go.jp/content/001390195.pdf
承認されたら負担金を納付する
土地に却下要件・不承認要件がなければ申請は承認され、負担金の納付通知が送られます。
負担金は通知が到達してから30日以内に日本銀行に納付します。法務局に直接納付することはできません。
6.相続土地国庫帰属制度以外の選択肢
相続土地国庫帰属制度は多数の要件、費用の負担があるため、手軽に土地を手放せるというものではありません。場合によっては、土地を手放すにはこの制度以外の方法が適していることもあります。
相続放棄する
相続から3カ月以内であれば、相続放棄をするのが一番簡単に土地を手放すことができます。
ただし、相続放棄は、土地を含めたすべての相続財産の権利を失うことになるため、土地以外の財産の価値を比較して検討する必要があります。
相続後に売却または譲渡する
相続後であれば、土地を売却または譲渡する方法もあります。
土地一つでは価値がなくても、隣接する土地を一つにすれば価値が出ることもあるので、売却・譲渡先を探す場合、まずは隣地所有者に掛け合うのがいいかもしれません。
7.まとめ
相続土地国庫帰属制度が承認されれば、価値のない土地であっても手放すことができ、税金や管理の負担から免れることができますが、負担金を納付する必要があるため、十分な検討は必要です。
ケースによっては相続放棄などの他の方法が適していることもあるので、土地の相続にお悩みの方は、一度専門家にご相談ください。状況に応じた適切なアドバイスを受けられます。
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