不動産を相続せず放棄できる?手続き方法や注意点を解説
2022.11.15 遺産相続目次
遺産に不要な不動産が含まれる場合の問題点と対処法
遺産の中に不動産が含まれている場合、それをそのまま相続するかは十分な検討が必要です。中には、老朽化等で入居者が入らないアパート、使い道のない山林などの、いわゆる「負動産」に該当する場合があり、そのまま相続してしまうと余計な負担・出費を負い続けることになりかねません。
以下、不動産を相続した場合の負担、遺産に不要な不動産が含まれている場合の対処を説明していきます。
不動産を相続すると固定資産税や維持費がかかる
不動産を所有していると発生する費用には、大きく分けて固定資産税と維持費が挙げられます。
①固定資産税
固定資産税とは、土地、建物や工場の機械、会社の備品などの固定資産にかかる税金で、固定資産の所有者が、固定資産が存在する市町村(東京都23区の場合は都に)に納めることになります。
固定資産税は、1月1日時点の固定資産の所有者に対して課されるため、不動産を相続したが使い道がないため放置しているという場合でも、課税対象となってしまいます。
さらに、相続した不動産を使わないからといって放置し続けると、対象の不動産が「特定空き家」に指定され、通常の6倍の固定資産税が課されるおそれがあります。
特定空き家とは、次のいずれかの状態に該当するものを指します。
- そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
- そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態
- 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
- その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
不動産が特定空き家に指定されると、自治体からその状態を改善するよう助言・指導が行われ、所有者がそれに応じなければ、必要な措置をとるよう勧告が行われます。
そして、勧告後の翌年から、固定資産税は軽減税率が解除され支払う額が増えてしまいます。
②維持費
不動産は、所有しているだけで、老朽化による倒壊等の被害を防止するため維持管理が必要です。また、売却するにしても、最低限のリフォームや設備の更新は必要になるでしょう。
相続を知ったときから3ヵ月以内なら相続放棄が可能
遺産の中に利用価値がない不動産が含まれている場合、対処の一つとして相続放棄が挙げられます。
相続放棄の詳細は後述しますが、相続があったことを知ってから3カ月以内に相続放棄をすれば、不動産を相続する権利自体が失われるため、前述の維持費等の負担を免れることができます。
「不動産だけ相続放棄」はできない
ただし、相続放棄は特定の遺産のみ行うことはできません。不動産以外に預金や価値のある動産があっても、相続放棄をするとそれらすべての相続する権利を失います。
なお、民法では「限定承認」という手続きがありますが、これは、相続人が得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐ制度であって、特定の財産のみを相続するというものではありません。
そのため、相続財産に不動産が含まれている場合は、承認・相続放棄のどちらにせよ十分に検討をする必要があります。
相続放棄の手続き方法と費用
相続放棄は、原則として相続を知ってから3カ月以内に裁判所に申述する必要があります。いざというときに手続きをスムーズに進められるよう、手続きの流れを説明していきます。
➀締め切りの確認
相続放棄の申述の期限は、相続があったことを知ってから3カ月以内です。
相続放棄は、必要書類に戸籍が含まれるため、場合によっては収集に時間がかかることがあるので、事前に手続きスケジュールを確認しておきましょう。
➁必要な費用・書類をそろえる
・必要な費用
- 800円分の収入印紙
- 連絡用の切手
切手の金額は裁判所によって異なるため、申述先の裁判所に確認をしましょう。
・申述人(相続放棄をする人)に関わらず共通して必要な書類
- 相続放棄の申述書
なお、申述書の書式の記載例は以下の裁判所のHPを参照してください
裁判所:https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
- 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
- 申述人の戸籍謄本
・申述人が被相続人の配偶者の場合
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
・申述人が被相続人の子又はその代襲者(孫,ひ孫等)(第一順位相続人)の場合
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 申述人が代襲相続人(孫,ひ孫等)の場合,被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
・申述人が,被相続人の父母・祖父母等(直系尊属)(第二順位相続人)の場合(先順位相続人等から提出済みのものは添付不要)
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいらっしゃる場合,その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属に死亡している方(相続人より下の代の直系尊属に限る(例:相続人が祖母の場合,父母))がいらっしゃる場合,その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
・申述人が被相続人の兄弟姉妹及びその代襲者(おいめい)(第三順位相続人)の場合(先順位相続人等から提出済みのものは添付不要)
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいらっしゃる場合,その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 申述人が代襲相続人(おい,めい)の場合,被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
③管轄の家庭裁判所に提出する
必要な書類を準備したら、それらを管轄の裁判所に提出します。管轄の裁判所は、被相続人の最後の住所地を管轄する裁判所で、以下の裁判所のHPで確認できます。
裁判所:https://www.courts.go.jp/saiban/tetuzuki/kankatu/index.html
➃照会書に記入して返送する
相続放棄の申し立てると、裁判所から2週間前後で「相続放棄照会書」が郵送されます。これは、相続放棄をする意思に間違いがないかを確認するもので、相続があったことを知った日、相続放棄をする理由などを求められます。
相続放棄の申述書と矛盾がないように必要事項を記載し、裁判所に返送します。
⑤相続放棄申述受理通知書を受け取る
裁判所に相続放棄が受理されると、裁判所から「相続放棄申述受理証明書」が郵送され、手続きは終了となります。
相続放棄するか迷ったときの注意点
放棄しても遺産の管理義務や費用負担が生じる場合がある
相続放棄をすれば、不動産を所有することによる固定資産税、維持費の負担は免れることになります。
ただし、相続放棄をしても、他の相続人が相続財産を管理できるようになるまで、その財産を管理する必要があるため(民法940条)、相続放棄をしたら終わりではなく、ほかの相続人とも相続財産の管理について連絡を取りましょう。
特に、相続放棄により相続人がいなくなった場合は、裁判所に相続財産管理人の選任を申立て、相続財産を管理してもらうことになります。その場合、申立て費用に加え、相続財産を管理するために必要な費用、相続財産管理人の報酬を納付しなければなりません。
不動産を放棄せず相続すると簡単には手放せない場合がある
不動産の処分は後で考えよう、としてとりあえず不動産を相続すると、その不動産の処分に困る場合があります。
不動産の処分としてまず挙がるのが売却ですが、利用価値がなければそれは難しいでしょう。
土地であれば自治体に寄付をするという手段もありますが、寄付を受けるかは自治体次第です。利用価値が薄い土地であれば、相続人に所有し続けてもらい固定資産税の納付を受けた方が自治体としては利益になるので、自身で利用価値がないと感じているのであれば、寄付をするのも困難です。
なお、法改正により令和5年4月27日から相続土地国庫帰属制度というものが開始されます。これは、相続した土地の所有権を手放して国庫に帰属させる制度です。
まだ制度が開始されていないため使い勝手はわかりませんが、建物が存在する土地は認められない等の複数の却下要件が存在する、10年分の土地管理費用を納付するなど、容易に利用できる制度ではなさそうです。
まとめ
以上が、不動産を相続した場合の負担や、相続放棄をする場合の概要です。
相続放棄をしても相続財産の管理からは免れない場合もあり、相続放棄をするかどうかの判断は困難なケースがあります。特に、相続放棄の期間は相続を知ってから3カ月と以外に短く、その間に判断をしなければなりません。
専門家であれば、事案に応じたアドバイスや、相続放棄間の伸長などの提案も可能であるため、詳しくは一度ご相談ください。
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