遺産相続で必要になる手続きとは?期限はいつまで?
2022.10.19 遺産相続家族が亡くなり相続が起きると、遺産分割協議や遺産の名義変更などさまざまな手続きが必要になります。税金の申告や相続放棄など、遺産相続に伴う手続きの中には期限が決まっているものがあるので注意が必要です。
この記事では、相続開始後に必要になる手続きの種類や期限について解説します。法定相続人や法定相続分、遺留分など、相続に関する用語の意味も紹介するので、相続の基本をしっかりと押さえた上で、必要な手続きを期限までに終わらせましょう。
目次
相続開始後に必要になる手続きの種類と行う期限の目安
相続開始後に行う主な手続きの種類と期限の目安は、以下のとおりです。
死亡日からの期限 | 手続き内容 |
7日以内 | ・死亡診断書の受け取り、死亡届の提出 ・火葬許可申請、葬儀 |
10日以内 | ・厚生年金の受給停止手続き |
14日以内 | ・国民年金の受給停止手続き ・健康保険や介護保険の資格喪失届の提出 ・世帯主の変更届の提出 |
1ヵ月以内 | ・雇用保険の受給者証の返還 |
速やかに | ・遺言書の有無の確認、検認 ・相続人調査、相続財産調査 |
3ヵ月以内 | ・相続放棄、限定承認 |
4ヵ月以内 | ・準確定申告 |
速やかに | ・遺産分割協議、遺産分割協議書の作成、遺産の名義変更 |
10ヵ月以内 | ・相続税の申告 |
1年以内 | ・遺留分侵害額請求 |
この他にも、電気代や水道代、携帯代の口座引き落としを止める手続きなどが必要になります。また、預金口座を凍結するためには銀行に連絡する必要があり、保険金を請求する場合には生命保険会社に連絡が必要です。
期限に注意が必要な3つの手続き
先ほど紹介した相続開始後の手続きの中には、法律で期限が決まっているものがあります。遺産相続に関連する手続きのうち、期限に注意が必要なのは「相続放棄」「準確定申告」「相続税の申告」の3つです。
➀相続放棄の期限は3ヵ月
遺言書が残されていない場合、後述する法定相続人が遺産を相続しますが、裁判所で相続放棄の手続きをすれば、相続人であっても遺産を相続せずに済みます。
相続放棄を検討すべきケースとしては、遺産に多額の借金が含まれる場合や、相続しても使い道がない財産が遺産に含まれる場合など、そもそも遺産を相続したくないような場合です。相続放棄をすれば、借金や不要な財産を相続せずに済みます。
ただし相続放棄をする場合は、相続の開始を知った時から3ヵ月以内に手続きをしなければいけません。期限を過ぎると原則として相続放棄はできず、借金を相続してしまうなど困る場合があるので注意が必要です。
相続放棄をするかどうか判断するには、遺産に含まれる財産を調査する相続財産調査を行う必要があります。相続財産調査にかかる期間はケースごとに異なりますが、司法書士などの専門家に依頼する場合には1ヵ月程かかると考えておきましょう。相続放棄の期限である3ヵ月後に間に合うように、専門家への相談・依頼は早めに行うようにしてください。
②準確定申告の期限は4ヵ月
所得があって所得税の納税が必要な場合、通常であれば本人が確定申告をしますが、本人が亡くなっている場合は、相続人が代わりに申告や納税の手続きを行います。被相続人の所得額に基づいて相続人が行う確定申告が、準確定申告です。
通常の確定申告では翌年3月15日が申告期限ですが、準確定申告では相続の開始を知った日の翌日から4ヵ月以内に手続きをする必要があります。申告の義務があるにも関わらず期限を過ぎると、延滞税や加算税が課されてしまうので注意が必要です。
被相続人に所得がある場合であっても基礎控除額以下の場合は、そもそも所得税がかからないので準確定申告は不要です。個人で事業をしていた場合は一般的に準確定申告が必要になります。申告義務の有無の判断で迷った場合や手続きの方法が分からない場合は、税理士に相談しましょう。
③相続税の申告期限は10ヵ月
遺産額が相続税の基礎控除額を超えると、相続税がかかります。
基礎控除額とは「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算した金額です。遺産額が基礎控除額以下であれば、相続税の申告は必要ありません。
相続税の申告は相続開始後10ヵ月以内に行う必要があり、申告の義務があるにも関わらず期限を過ぎると延滞税や加算税が課されます。期限後の申告だと特例制度が使えなくなり、税額が大きく上がる場合もあるので注意が必要です。
また、相続税は各相続人の遺産相続額をもとに計算しますが、仮に遺産分割協議で揉めて各相続人の相続額が10ヵ月以内に確定しない場合でも、相続税の申告期限は延長されません。
この場合には、後述する法定相続分に応じて各相続人が遺産を相続したものと仮定して税額を計算して一旦申告・納税を行い、遺産分割協議が終わった後に正しい税額で改めて申告・納税をやり直します。
遺産相続の手続きの流れ
遺産相続の手続きは、順を追って進めていく必要があります。手順を間違えたり、手続きでミスをしたりすると、すべてやり直しになって余計な手間や時間がかかることがあるので注意が必要です。
以下では、遺産相続の一般的な手続きの流れを紹介します。相続手続きに慣れていない方には難しい手続きもあるので、不安な場合には弁護士や司法書士などの専門家に手続きの代行を依頼することも検討してください。
遺言書の有無を確認する
遺言書がある場合は遺言内容に従って遺産を相続し、遺言書がない場合は遺産分割協議を行って遺産の分け方を相続人で話し合って決めることになります。
遺言書の有無によって遺産相続の手続きの流れが変わるので、相続が開始したらまずは遺言書が残されているか確認しましょう。遺言書は故人の部屋で遺品整理をする中で見つかる場合があり、公証役場や法務局で保管されている可能性もあります。
相続財産調査と相続人調査を行う
遺産相続の対象となる財産は何か、遺産を相続する権利がある相続人は誰か、それぞれ確認する必要があります。
相続財産調査と相続人調査は、遺産分割協議の対象となる財産や人を把握するための大切な手続きであり、間違いがあると遺産分割協議がやり直しになる場合があるので注意が必要です。相続人調査は、故人の死亡時点の戸籍謄本から遡る形で出生時点まですべての戸籍謄本を取得して行い、相続財産調査は故人の遺品や郵送物などを細かく確認して行います。
遺産分割協議を行って遺産の分け方を決める
遺言書がない場合や遺言書で一部の財産しか遺産分割の方法が指定されていない場合、相続人が2人以上いれば遺産をどのように分けるのか話し合って決める必要があります。この話し合いが遺産分割協議です。
後述する法定相続分に応じて遺産を分けるケースが多く見られますが、各相続人が同意するなら他の割合で遺産分割を行うこともできます。また、遺産分割協議は直接会って行っても、メールや電話等で意見を調整して行っても構いません。遠方に住んでいる相続人がいる場合、直接会うことが難しければ書面でやり取りすることも考えられます。
遺産分割協議書を作成する
遺産分割協議をして合意できたら、遺産分割協議書を作成して合意内容を記載します。遺産分割協議書は、銀行預金の解約や不動産の相続登記など、遺産相続手続きを行う際に提出する書類の一つです。
遺産分割協議書には誰が何の財産を相続するのか分かるように記載し、相続人の数だけ作成して各相続人が1通ずつ保管します。遺産分割協議書の書き方を間違えると後々にトラブルになる場合があるので、遺産分割協議書の作成は弁護士や司法書士に依頼するほうが安心です。
遺産の名義変更の手続きを行う
遺産分割協議によって誰が何の財産を相続するか決まったら、各相続人は自分が相続する財産に応じて必要な手続きを行います。
例えば、土地や家を相続する人は、不動産の名義を被相続人から相続人に変更する相続登記が必要です。
また、預金を相続する人は口座の解約手続きを行い、証券口座内の株式を相続する人は株式の名義を被相続人から相続人に変更して相続人の証券口座に移管します。この他にも、車など相続財産の種類によっては、名義変更の手続きが必要になる場合があります。手続きの数が多くて大変な場合は、弁護士や司法書士に依頼して手続きをすべて任せても良いでしょう。
遺産を相続する人は誰?法定相続人の決まり方
遺産を相続する人は原則として法律で定められた相続人、つまり法定相続人です。家族であれば誰でも遺産相続の権利を主張したり、相続人になれたりするわけではありません。相続が起きたときに誰が遺産を相続するのかは法律で決まっているので、法定相続人の決まり方を正しく理解しておく必要があります。
配偶者は必ず相続人になる
相続が起きたときに配偶者が生きていれば、配偶者は相続人になり遺産を相続できます。この後に解説するように、親や兄弟姉妹の場合は先順位の人がいると相続人になれませんが、配偶者の場合は必ず相続人になるので、他に相続人がいるかどうかは関係ありません。
配偶者は故人の財産形成に貢献していることが多く、遺産相続では他の親族よりも大きな権利が認められています。ただし、相続人になる配偶者とは婚姻関係にある配偶者です。婚姻関係にない内縁の妻の場合は、法定相続人にはなりません。内縁の妻に遺産を渡したい場合は、生前に遺言書を作成するなど相続対策をしておく必要があります。
子・親・兄弟姉妹の間では相続人になる順位が決まっている
子・親・兄弟姉妹の間では相続人になる順位があり、子が第一順位、親が第二順位、兄弟姉妹が第三順位です。先順位の人がいればその人が相続人になり、順位が後の人は相続人にはなりません。
例えば、相続開始時点で被相続人の配偶者・子・兄がいる場合、法定相続人になるのは配偶者と子です。子(第一順位)よりも相続人になる順位が低い兄(第三順位)は、法定相続人には当たらず、遺産相続の権利はありません。
また、同順位の人が複数いる場合は、先順位の人がいなければいずれも法定相続人になります。相続開始時点で子や親がおらず被相続人の弟と妹がいるケースなら、第三順位の弟と妹の2人とも法定相続人です。
なお、子は実子だけでなく養子も相続人になりますが、再婚相手の連れ子は相続人にはなりません。再婚相手の連れ子に財産を渡したい場合は、遺言書の作成や養子縁組など相続対策をしておく必要があります。
代襲相続が起きると孫・甥・姪が相続人になる
第一順位の子が相続開始時点で亡くなっている場合でも、その子の子、つまり被相続人の孫がいれば、孫が法定相続人として遺産を相続します。本来の相続人に代わってその子が相続人になる代襲相続と呼ばれる制度です。
第三順位の兄弟姉妹が相続開始時点で亡くなっている場合も、その兄弟姉妹の子、つまり被相続人の甥や姪がいれば、代襲相続によって法定相続人になります。
ただし、子と兄弟姉妹では代襲相続が起きる範囲が異なり、子では孫やひ孫など何代先の世代でも代襲相続が起きますが、兄弟姉妹では代襲相続人になれるのは甥・姪の世代までです。仮に相続開始時点で甥が亡くなっていてその子がいる場合でも、甥の子は代襲相続人にはなりません。
相続する遺産割合の目安となる法定相続分とは
法定相続分とは、各相続人がどれだけの遺産を相続するのかを法律で定めた割合です。遺産分割協議をして、各相続人の相続割合を決める際の目安になります。また、遺産分割審判によって裁判所が遺産分割の方法を決める際にも、法定相続分が使われることが多いと言えます。
以下のように誰が法定相続人であるかによって、法定相続分も異なってきます。
【相続人】 | 【法定相続分】 |
配偶者のみ | 全財産 |
配偶者と子 | 配偶者:2分の1、子:2分の1 |
子のみ | 全財産 |
配偶者と親 | 配偶者:3分の2、親:3分の1 |
親のみ | 全財産 |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者:4分の3、兄弟姉妹:4分の1 |
兄弟姉妹のみ | 全財産 |
同順位の法定相続人が2人以上いる場合は、表の割合を人数で割った値が各相続人の法定相続分となります。
例えば、配偶者と子2人が相続人のケースなら法定相続分は子2人で2分の1なので、子1人当たりの法定相続分は2分の1を2人で割った4分の1です。
また、代襲相続によって孫や甥、姪が相続人になる場合は、代襲相続人の法定相続分は本来の相続人である子や兄弟姉妹の法定相続分と同じになり、代襲相続人が2人以上いる場合は、人数で均等に割った値が各代襲相続人の法定相続分となります。
遺産相続の対象になる財産の考え方
相続と聞くと、現金や預金、不動産などの相続をイメージする人が多いと思いますが、遺産相続の対象になる財産はプラスの財産だけではありません。対象となる財産を勘違いすると、遺産分割協議や相続税の申告がすべてやり直しになる場合があるので、遺産相続における財産の範囲について正しく理解しておく必要があります。
プラスの遺産以外にマイナスの遺産も相続の対象になる
銀行からの借入れやクレジットカードの未返済額、水道光熱費や介護施設の利用料の未払金など、マイナスの財産も相続の対象です。プラスの遺産よりマイナスの遺産が多い場合は、相続すると相続人が債務を負ってしまうので相続放棄の検討が必要になります。
債務残高の調査のやり方には、いくつかの方法があります。全銀協・JICC・CICに照会を行えば被相続人に未返済額があるかどうか確認が可能です。また、お金を借りたときの契約書(金銭消費貸借契約書)が遺品整理をする中で見つかり、借金の存在が分かる場合もあります。
遺産分割協議や相続税計算の対象外になる財産がある
年金受給権や国家資格など、一身専属的な権利は遺産相続の対象にならず、仏壇や墓石など祭祀に関する財産は遺産分割協議の対象にはなりません。また、被相続人の死亡によって相続人が死亡保険金や死亡退職金を受け取るとなると、ほとんどの場合は保険契約や退職金規定で定められている受取人固有の財産となるため、遺産分割協議の対象外です。
相続税の計算には仏壇や墓石など祭祀に関する財産は含めず、相続税の申告期限までに国などに寄附した財産も含めません。死亡保険金や死亡退職金を受け取った場合は、500万円に法定相続人の数をかけた額までは非課税ですが、超える額については相続税の計算に含まれます。
遺産相続で理解しておきたいその他のポイント
最後に、遺産相続で相続人が理解しておくべき事項として「法定相続分と遺留分の違い」と「遺言書と遺産分割協議の効力関係」について紹介します。
法定相続分と遺留分の違い
遺留分とは、被相続人の遺産について最低限の取り分として一定割合で保障されている遺産取得分のことです。法定相続分が配偶者・子・親・兄弟姉妹に対して定められているのに対して、遺留分が定められているのは配偶者・子・親です。兄弟姉妹には遺留分はありません。
以下のように誰が法定相続人であるかによって、遺留分も異なってきます。
【相続人】 | 【遺留分】 |
配偶者のみ | 2分の1 |
配偶者と子 | 配偶者:4分の1、子:4分の1 |
子のみ | 2分の1 |
配偶者と親 | 配偶者:3分の1、親:6分の1 |
親のみ | 3分の1 |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者:2分の1、兄弟姉妹:なし |
兄弟姉妹のみ | なし |
遺言書が残されていたことにより他の相続人が多く財産を相続して自分の遺留分を侵害した場合、侵害額に相当する金銭を請求できる権利を主張できます。これが、遺留分侵害額請求権と呼ばれる権利です。
遺言書で遺産相続の方法が指定されている場合でも、遺留分を下回る財産しか自分に渡らない場合は遺留分侵害額請求を行うことができます。法定相続分を下回るだけなら請求はできませんが、遺留分を下回る場合は請求が可能です。
ただし、遺留分を侵害しているかどうかを判定するためには、遺留分の算定のもとになる遺産額を正しく計算するなど専門的な知識が必要になるので、弁護士や司法書士に相談することをおすすめします。
遺言書と遺産分割協議の効力関係
遺産分割協議が終わった後に遺言書が見つかるケースがありますが、この場合には遺言書の内容が優先されます。
ただし、遺言書で遺産分割が禁止されておらず、遺言書とは異なる方法で遺産分割を行うことに各相続人が同意する場合は、遺言書と異なる内容で遺産を分けることが可能です。この場合、相続人以外に財産を受け取る人(受遺者)や遺言執行者が遺言書に書かれていれば、遺言執行者や受遺者の同意も必要になります。
実際の遺産相続では、遺言書がかなり前に書かれたもので相続開始時点の相続人の事情等が考慮されておらず、遺言どおりに相続すると困る場合や異なる方法で遺産分割をしたほうが良い場合があることは確かです。
遺言書は亡くなった方の意思であり尊重されるべきものではありますが、遺言とは異なる方法で遺産分割をしたいなど、遺言書の取り扱いで悩んだ場合には相続の専門家に相談することをおすすめします。相続でお困りの方は、司法書士法人みどり法務事務所にお気軽にご相談ください。
まとめ
家族が亡くなると、さまざまな手続きが必要になります。遺産相続に伴う手続きの中には期限が決まっているものがあるので、期限に遅れることがないように、手続きに向けた準備は早めに始めるようにしましょう。
今回は、遺産相続手続きの一般的な流れや法定相続人・法定相続分・遺留分など相続に関する基本的な事項を紹介しましたが、実際の相続手続きでは、ケースに応じて追加で手続きが必要になる場合があるなど、相続の専門家でないと対応が難しい場合があります。
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