土地の生前贈与と相続、お得なのはどっち?税金や手続きを比較
2022.11.22 生前対策土地を家族に渡す場合、生前贈与でも相続でも渡せる点は同じですが、かかる税金の種類や税率が変わります。土地を受け取る家族の税負担や手続き面での負担が少なくて済むのは、生前贈与と相続のどっちなのでしょうか。
この記事では、土地の生前贈与と相続を比較して、税金や手続きがどのように違うのか解説します。土地を生前に贈与されていた場合に相続人が相続放棄をできるのか、贈与と相続の関係で知っておきたいポイントも紹介するので、生前の相続対策を検討する際の参考にしてください。
目次
生前贈与と相続の基本
土地を生前に贈与するか相続で渡すかを決めるには、生前贈与と相続に関する基本的な事項を理解しておく必要があります。まずは、生前贈与と相続それぞれの概要から見ていきましょう。
生前贈与とは
生前贈与とは、生きている間に自分の財産を渡すことです。配偶者や子に財産を贈与すれば、相続税の課税対象となる遺産額が減って、家族が払う相続税を減らすことができます。
また相続まで待たずに財産を渡せば、家族が必要とするタイミングで財産を渡すことができて、有効に活用できる点も生前贈与のメリットのひとつです。
財産を生前贈与すると贈与税の課税対象になりますが、年間110万円の非課税の特例制度の要件を満たす場合には、贈与税はかかりません。生前贈与の方法を工夫することで、贈与税も相続税も安く抑えながら財産を渡すことができます。
相続とは
相続とは、亡くなった人(被相続人)の財産や権利を別の人が受け継ぐことです。財産や権利を誰が受け継ぐのか、相続人になる人は法律で決まっています。
配偶者は常に相続人になりますが、子・親・兄弟姉妹の間では順位があり、第一順位が子、第二順位が親、第三順位が兄弟姉妹です。上の順位の人がいる場合、下の順位の人は相続人にはならず遺産の相続権はありません。ただし、生前に遺言書を作成しておけば、誰に何の財産を渡すか指定できます。遺言によって相続人以外の人に財産を渡すことも可能です。
遺言書がある場合には、その内容に従って遺産を相続します。一方、遺言書がなく相続人になる人が複数人いる場合は、遺産の分け方を相続人で話し合って決めます。
生前贈与と相続では税金の種類が変わる?お得なのはどっち?
土地の生前贈与と相続ではかかる税金の種類が異なり、それぞれ以下の税金がかかります。
| 税金の種類 |
生前贈与 | ・登録免許税 ・不動産取得税 ・贈与税 |
相続 | ・登録免許税 ・相続税 |
登録免許税は贈与より相続のほうが安い
登録免許税とは、法務局で登記をする際に納める税金です。生前贈与や相続で土地を取得した場合、土地の名義を新たな所有者に変更するための登記を行うことになり、登録免許税を納付します。
登録免許税の税額は土地の課税標準額に税率をかけて求めた金額で、税率は生前贈与なら2%、相続なら0.4%です。生前贈与と相続では、登録免許税の税額に5倍の差が生じます。土地の価格が2,000万円の場合、生前贈与であれば税率2%で税額は40万円ですが、相続であれば税率0.4%で税額は8万円です。
不動産取得税は相続ではかからない
不動産取得税とは、土地や家などの不動産を取得したときにかかる税金です。購入や贈与などで土地を取得した場合も、不動産取得税がかかります。しかし、相続によって土地を取得した場合にはかかりません。
不動産取得税の税率は取得した不動産の種類によって異なり、土地の場合は令和6年3月31日までは税率3%です。2,000万円の土地を生前贈与によって取得すると、60万円の不動産取得税がかかります。
非課税になる金額は贈与税より相続税のほうが大きい
贈与税は贈与財産の金額が年間110万円以下であればかからず、相続税は遺産額が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で求めた金額以下であればかかりません。
非課税になる金額(基礎控除額)は贈与税よりも相続税のほうが大きいので、相続によって財産を渡すほうがより大きな額の財産を無税で渡すことができます。
例えば2,000万円の土地を親から成人の子に渡す場合、生前贈与なら贈与税585.5万円がかかりますが、相続なら土地を含めた遺産総額が基礎控除額以下であれば、相続税はかかりません。
ただし贈与税にも相続税にも特例制度があり、特例制度を使える場合は贈与税や相続税を大幅に軽減できる場合があります。そのため、土地の生前贈与と相続のいずれで税金が安くなるのかはケースごとに変わるので、節税対策を考える際は個別に検討が必要です。
土地の生前贈与と相続、手続きが簡単で負担が軽いのはどっち?
生前贈与でも相続でも、土地の名義変更や税金の申告が必要になる点は同じです。ただし相続人の数が多い場合は、土地を相続で渡そうとすると手続きが進まず手間がかかることがあります。
相続では他の相続人と揉めて手続きが進まないことがある
相続では、遺産分割協議で揉めると誰が土地を相続するのか決まらず、土地の相続手続きが進まないことがあります。遺産分割協議で合意できず、調停や審判で決める場合は裁判所で手続きが必要になり、他の相続人と揉めて精神的な負担が増すことも少なくありません。
また、仮に遺産分割協議で合意して誰が土地を相続するか決まった場合でも、相続人の中に非協力的な人がいると書類が揃わず手続きが進まないことがあります。
一方で生前贈与の場合は、土地を渡す人(贈与者)と受け取る人(受贈者)の2人が合意すれば贈与が成立して手続きを進められるので、贈与の手続きをする際に贈与者・受贈者以外の人の同意や協力は基本的に必要ありません。
土地を生前贈与するときの手続きの流れ
土地の生前贈与で必要になる主な手続きは、登記と税金(贈与税・不動産取得税)の申告の2つです。
贈与登記の手続きの流れ
法務局で贈与登記を行う際、一般的には次の書類が必要になります。
| 一般的に登記で必要になる書類 |
贈与者 | ・登記済権利証(または登記識別情報) ・印鑑証明書 ・固定資産評価証明書 |
受贈者 | ・住民票 |
その他 | ・贈与契約書 |
また、法務局に提出する登記申請書を作成する際、登記事項証明書が必要になります。手元にない場合は、法務局に申請して事前に取得するようにしてください。登記申請書の用紙は法務局のサイトからダウンロードでき、記入例も掲載されています。
登記ができるのは、登記対象となる土地がある地域を管轄する法務局です。登記申請書が作成できたら必要書類とともに法務局に提出します。
贈与税・不動産取得税の申告手続きの流れ
贈与税の申告は贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日に行います。申告・納税の手続きをする税務署は、原則として土地を贈与された人の住所地を管轄する税務署です。
贈与税の申告書は国税庁のサイトからダウンロードでき、一般的な贈与であれば申告書の第一表に記入して提出することになります。土地の贈与の場合は、固定資産税評価額をそのまま使用するのではなく、相続税評価額(路線価方式や倍率方式)を個別に算定して使用することになります。当然、その評価額に至った根拠書類も添付する必要があります。贈与税の計算や申告書の作成は慣れていない方には難しいので、税理士に依頼しても良いでしょう。
不動産取得税は国税ではなく地方税のため、税務署ではなく市区町村(東京23区は都税事務所)が担当となります。(不動産の取得者本人ではなく)各地方自治体が税額を計算して、その税額が記載された通知書が届くので、その通りに納税をすることになります。
土地を相続するときの手続きの流れ
土地の相続で必要になる主な手続きは、登記と税金(相続税)の申告の2つです。
相続登記の手続きの流れ
法務局で相続登記を行う際、一般的には次の書類が必要になります。
| 一般的に登記で必要になる書類 |
遺言(公正証書遺言)に基づいて相続する場合
| ・固定資産評価証明書 ・遺言書 ・被相続人の死亡時の戸籍謄本、住民票の除票 ・不動産を相続する人の戸籍謄本、住民票 |
遺産分割協議に基づいて相続する場合 | ・固定資産評価証明書 ・遺産分割協議書 ・被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、住民票の除票 ・すべての相続人の戸籍謄本、印鑑証明書 ・不動産を相続する相続人の住民票 |
法定相続分で相続する場合 | ・固定資産評価証明書 ・被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、住民票の除票 ・すべての相続人の戸籍謄本 ・不動産を相続する人の住民票 |
登記申請書の用紙を法務局のサイトからダウンロードできる点や土地がある地域を管轄する法務局に書類を提出する点は、贈与登記で解説した内容と基本的に同じです。
相続税の申告手続きの流れ
相続税の申告は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に行います。申告・納税の手続きをする税務署は原則として被相続人の住所地を管轄する税務署です。
相続税の計算や申告書の作成は慣れていない方には難しいので、一般的に税理士に依頼することになります。土地の相続では相続税評価額(路線価方式や倍率方式)を個別に算定して使用することになります。当然、その評価額に至った根拠書類も添付する必要があります。税理士に依頼すれば必要書類の取得も代行してもらえます。
土地にかかる税金は安くできる!うまく活用したい特例制度
生前贈与や相続で土地を渡す場合、特例制度の要件を満たすように工夫すれば贈与税や相続税を安くできる場合があります。以下では土地の贈与・相続でうまく活用したい主な特例制度を紹介します。
【配偶者控除】相続なら最低でも1億6千万円、贈与なら最大2千万円が非課税になる
配偶者が遺産を相続する場合、少なくとも1億6千万円の遺産までは相続税がかかりません。子や兄弟姉妹など配偶者以外の人が土地を相続すると相続税が高額になる場合でも、配偶者が土地を相続するようにすれば相続税を安くできる場合があります。
また配偶者に土地を生前贈与する場合、贈与税の配偶者控除を使えれば最大2千万円の贈与まで贈与税はかかりません。配偶者が贈与される土地が居住用であり婚姻期間が20年以上であることなど、一定の要件を満たすと配偶者控除を適用できます。
【小規模宅地等の特例】土地の評価額を最大80%減額して相続税を計算できる
小規模宅地等の特例とは、被相続人の配偶者や同居の家族など一定の要件に該当する人が居住用・事業用の土地を相続する場合、土地の評価額を最大80%減額して相続税を計算できる特例制度です。1億円の土地を相続しても80%減額できれば税額計算に含まれる価格は2,000万円で済むので、節税効果が大きい制度といえます。
居住用の土地を同居の家族が相続する場合は「相続開始の直前から相続税の申告期限まで建物に居住し、その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること」が条件となりますが、配偶者が居住用の土地を相続する場合は居住の有無は問われません。
【相続時精算課税制度】2,500万円の贈与まで贈与税がかからない
相続時精算課税制度とは、財産を生前に贈与しても2,500万円までは贈与税がかからずに済み、当制度を使って生前贈与した財産が相続税の課税対象になる制度です。2,500万円を超える贈与をした場合は、超える額に対して20%の税率で贈与税がかかります。
相続時精算課税制度を使えば贈与額が累計2,500万円以下だと贈与税はかからず、相続税の計算に含まれてもその他の遺産と合わせて遺産額が基礎控除額以下であれば相続税もかかりません。
相続時精算課税制度を使えるのは、60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子や孫に贈与する場合など、一定の要件に該当する場合に限られますが、うまく活用すると税金を安く抑えられる場合があります。
土地を生前贈与で渡すほうが良いケース
以下で紹介するケースに該当する場合は、土地を生前贈与するとメリットが大きくなる可能性があります。相続で渡すのではなく生前贈与を検討してみると良いでしょう。
相続トラブルになる可能性がある場合
家族の仲が悪い場合、相続が起きたときに相続人で揉めることがあります。生前に財産を贈与しておけば分け方を巡って揉める原因となる遺産が減るので、相続まで待たずに土地を生前贈与することも選択肢のひとつです。生前贈与であれば自分が渡したい人に確実に土地を渡すことができます。
賃貸マンションなど収益物件が建っている場合
収益物件が遺産に含まれる場合、相続までその物件を持ち続けると家賃収入も相続財産に含まれてしまい、遺産額が増えて相続税が高くなります。しかし、生前に土地と収益物件を贈与してしまえば家賃収入は受贈者のものになるので、相続財産が増えたり相続税が増えたりする心配がなくなります。
相続まで待たずに財産を早く活用してもらいたい場合
相続まで待ってから土地を渡すと、相続する側が土地を必要としていない場合や相続しても使い道がなく困る場合があります。しかし、生前に贈与する場合は贈与するタイミングを選べるので、受け取る側が土地を必要としているときに贈与することが可能です。
例えば、子がマイホームを建てるときに土地を贈与すれば有効に活用してもらえます。
土地を相続で渡すほうが良いケース
以下で紹介するケースに該当する場合は、土地を相続で渡すとメリットが大きくなる可能性があります。生前贈与ではなく、相続で渡すことを検討してみると良いでしょう。
財産額が相続税の基礎控除額以下の場合
遺産の総額が相続税の基礎控除額以下であれば、相続税はかかりません。一方で生前贈与の場合は、贈与税の配偶者控除のような特例制度を使えなければ一般的に年間110万円を超す額に対して贈与税がかかってしまいます。生前贈与よりも相続のほうが税金を安く抑えられる場合、税負担を軽くするためには相続で渡すほうが得策といえます。
相続税の特例による節税効果が大きい場合
前述のとおり、相続税には配偶者控除や小規模宅地等の特例など節税効果が大きな特例制度があります。土地を生前に贈与すると、相続税の特例制度が使えず結果的に税負担が増える場合があり、税金を安く抑えるためには相続で渡すほうが良いケースがあります。
土地を生前に贈与しても相続放棄はできる?
生前贈与にするか相続にするか、土地の相続対策を考える際に理解しておくべきことのひとつに相続放棄との関係があります。相続放棄とは、相続人が遺産を相続せず相続権を放棄することです。
将来相続が起きたとき、何らかの理由で相続放棄を検討せざるを得ない状況になることも考えられますが、そもそも生前贈与を受けていても相続放棄はできるのか、贈与と相続の関係を押さえておく必要があります。
生前贈与を受けていても相続放棄は可能
生前贈与を受けているかどうかに関係なく、相続が開始したときに相続人が相続放棄をしたければ自由に選択できます。
相続放棄をできるのは、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から3ヶ月以内です。遺産に借金がある場合や遺産を相続しても困る場合など、相続放棄をしたい場合には期限までに手続きをする必要があります。
債務を免れるための生前贈与は取り消される可能性がある
土地や預金などプラスの財産を生前に贈与してしまい、借金だけを相続の対象にして相続人が相続放棄をした場合は、被相続人にお金を貸している債権者の請求によって生前贈与が取り消される可能性があります。
債権者の立場から考えると、貸付金が戻ってこない場合でも土地や預金などを差し押さえることで回収できたはずですが、この権利が相続人の生前贈与や相続放棄によって害されたと判断できる場合は、生前贈与が詐害行為取消権の対象になり得るからです。
相続時精算課税制度を使っているなら相続放棄をしても相続税の対象になる
相続時精算課税制度を使って生前に財産を贈与されていた場合、相続税の課税対象になるので「相続することが前提となってしまい、相続放棄はできなくなるのではないか」と思う人もいるかもしれません。しかし、相続時精算課税制度を使っていても相続放棄は可能です。
相続放棄をした場合でも、相続時精算課税制度を使って贈与された財産は相続で取得したものと見なされるので、生前に贈与された財産額に基づいて相続税がかかります。
土地を生前贈与するときの注意点
土地を生前贈与すれば相続税の節税になりますが、贈与の仕方を間違えると税金が増えたり、トラブルの原因になったりするので注意が必要です。生前贈与をする場合は、以下で紹介する点に注意しながら行うようにしてください。
相続開始前3年以内の贈与は相続税の課税対象になる
亡くなる前3年以内の生前贈与は、相続税の課税対象になります。亡くなる直前に慌てて財産を贈与しても、相続税の課税対象を減らすことはできません。相続税対策として生前贈与をするのであれば、計画的に行う必要があります。今後の税制改正で、「3年」から「5年」や「10年」などへ増える可能性もあります。
家族間の贈与でも贈与契約書は必ず作成する
贈与自体は口頭での合意でも成立しますが、後々に揉めないように贈与契約書をしっかりと作成しておきましょう。家族間の贈与であっても後になってから揉める可能性はありますし、贈与契約書として明確に文章にしておかないとトラブルになる場合があります。
また、贈与契約書が残されておらず贈与の証拠が残されていない場合、相続が開始したときに税務署から生前贈与を否認されてしまう可能性があるので注意が必要です。贈与で受け取った土地は自分のものだと思っていても、生前贈与自体が否認されると土地は被相続人の財産のひとつとして相続税の課税対象になってしまいます。
遺留分を侵害すると相続開始後にトラブルになる可能性がある
一定の相続人には、遺産を最低限相続できる権利として遺留分が保障されています。生前贈与によって別の家族が相続できる遺産が減って遺留分を侵害するとトラブルになる場合があるので、土地を生前に贈与する場合は各推定相続人の遺留分に注意するようにしてください。
まとめ
生前贈与と相続を比べた場合、基礎控除額は贈与税よりも相続税が大きいので、相続のほうがより大きな金額の財産を非課税で渡すことができます。
ただし贈与税にも相続税にも特例制度があり財産の渡し方を工夫すると税金が安くなる場合があるので、生前贈与と相続のどっちがお得と一概にはいえません。土地を家族に渡す場合、渡す相手や特例制度の適用の有無などを踏まえて個別に検討が必要となります。
土地の活用や相続対策でお悩みの方は、司法書士事務所 みどり法務事務所にご相談ください。当事務所では、皆様になるべくストレス無く相続を済ませていただくために、定額の相続登記代行サービス「スマそう-相続登記-」をはじめとする、相続に関する各種サポートを行っています。まずはお気軽にお問い合わせください。
関連記事
人気記事
新着記事