相続税の配偶者控除とは?利用するデメリットはある?
2022.10.07 税金対策相続財産が多いと、相続税の支払いがどれくらいになるのか不安になる方もいらっしゃるでしょう。相続税には要件を満たすことにより、非課税で相続できる特例がいくつかあります。中でも相続税の配偶者控除(配偶者の税額軽減)は、非課税で贈与できる額が大きく、積極的に利用したい特例ではないでしょうか。
しかし、相続税の配偶者控除を利用することで、二次相続で子供たちが相続する際に損するケースもあるので注意が必要です。この記事では、相続税の配偶者控除が適用される要件、利用することにより実際にどのくらい相続税負担が軽減するのか、配偶者控除の申請方法などについて説明します。
目次
相続税の配偶者控除とは
相続が発生し、被相続人が保有していた財産が基礎控除【3,000万円+(法定相続人の人数×600万円)】を超える場合は、相続税が発生します。
例えば、法定相続人が配偶者と子供2人の場合、法定相続人は3人なので相続財産が4,800万円を超える場合には相続税がかかります。
しかし、相続税の配偶者控除を利用すると、本来ならば相続税がかかる場合も配偶者が相続する部分については非課税で相続できるようになります。
配偶者控除は下記の2つのうち多い金額まで適用されます。
- 配偶者の法定相続割合の範囲
- 1億6,000万円
多くのケースでは、配偶者が相続する財産が1億6,000万円を超えることはないと予想します。そのため、配偶者控除を利用すれば、配偶者が相続する相続財産の合計が1億6,000万円を超えない限り、相続税を支払う必要がないと考えて良いでしょう。
相続税の配偶者控除が適用される要件
相続税の配偶者控除が適用される条件は、下記のとおりです。
- 法律上の婚姻関係にある
- 遺産分割の内容が決まっている
- 相続税の申告を行う
法律上の婚姻関係にある
まず、法律上婚姻関係にあるという要件についてですが、婚姻届を提出しており、法的に夫婦関係があればこの制度を利用できます。婚姻期間の長さは関係ないので、婚姻期間1年以内でも利用可能です。「贈与税」の配偶者控除を利用する場合、婚姻関係が20年以上なければ利用できないので、「相続税」の配偶者控除の方が利用しやすいといえます。
ただし、事実婚の場合は相続税の配偶者控除を利用できないので注意しましょう。
遺産分割の内容が決まっている
相続税の配偶者控除を利用するためには、配偶者が相続する内容が決定している必要があります。通常、相続税の申告・納付期限は被相続人が亡くなったことを知った翌日から10カ月以内です。遺言書による相続の場合は、遺言書の内容に従い相続するので相続内容決定には時間がかかりません。
しかし、遺産分割協議の場合、誰がどの財産を引き継ぐかを法定相続人同士が話し合って決める必要があるので、時間がかかります。特に、法定相続人が配偶者と兄弟姉妹のケースや法定相続人が海外にいるケースなどは、協議に時間がかかりやすいです。そのため、遺産分割協議で相続財産を決める場合は、早めに協議を始めて相続税の申告・納付日までに決定できるようにスケジュール調整しましょう。
相続税の申請を行う
配偶者控除を利用することで、相続税が一切発生しなくなるケースも多いです。
例えば、亡くなった父親の財産が1億5,000万円で、法定相続人が配偶者と子供2人とします。このケースは、【3,000万円+(法定相続人3人×600万円)】で基礎控除が4,800万円なので相続税が発生します。
法定相続割合に従うと、配偶者である母親が7,500万円、子供たちがそれぞれ3,750万円ずつ相続することになりますが、子供たちが相続しないとして母親が1億5,000万円分すべて相続することもあるでしょう。配偶者が相続する財産は1億6,000万円以下で配偶者控除の範囲に収まりますので、相続税の支払いは発生しません。
ただし、配偶者控除を利用したい場合には相続税の申告が必要です。相続税が一切かからないからといって申告をしないと無申告扱いになるので注意しましょう。無申告扱いとなれば、無申告加算税というペナルティも発生します。
配偶者の法定相続割合について
相続が発生したら、配偶者は常に法定相続人になります。ただし、配偶者以外の法定相続人が誰になるかで配偶者の法定相続割合は変わります。ここでは、配偶者の法定相続割合について説明します。
法定相続人が配偶者と子供
法定相続人が配偶者と子供の場合、配偶者の法定相続割合は2分の1、子供の法定相続割合は2分の1です。子供の法定相続割合は、子供の人数でさらに分かれます。
例えば、法定相続人となる子供が3人いる場合は、それぞれ6分の1ずつになります。また、子供がすでに亡くなっていて孫がいる場合、孫が子供の法定相続割合を代襲相続します。
なお、配偶者の法定相続割合は子供の人数や代襲相続する孫の人数に関係なく、常に2分の1です。
配偶者控除は、配偶者の法定相続分まで相続税がかかりません。5億円の財産が残されており、配偶者が2億5,000万円を引き継ぐ場合、配偶者には相続税がかからないということです。
法定相続人が配偶者と親
被相続人と配偶者の間に子供・孫がいない場合、配偶者と被相続人の親が法定相続人になります。このケースでの配偶者の法定相続割合は3分の2、親の法定相続割合は3分の1です。なお、両親が亡くなっている場合も祖父母が健在ならば祖父母が法定相続人となります。
配偶者が相続する財産が1億6,000万円以下または法定相続割合以下(今回のケースでは相続財産全体の3分の2)ならば、相続税の配偶者控除の特例を利用することにより相続税がかかりません。
法定相続人が配偶者と兄弟姉妹
被相続人と配偶者の間に子供・孫がおらず、被相続人の両親・祖父母がいない場合は、配偶者と被相続人の兄弟姉妹が法定相続人となります。このケースの配偶者の法定相続割合は4分の3、兄弟姉妹の法定相続割合は4分の1です。
配偶者が相続する財産が1億6,000万円以下または法定相続割合以下(今回のケースでは相続財産全体の4分の3)ならば、相続税の配偶者控除を利用することにより相続税はかかりません。
配偶者控除の計算例
ここでは、配偶者控除を利用することにより、どのくらい相続税負担を軽減できるかについて、具体的な計算例を出しながら説明します。
➀配偶者の相続財産が法定相続分以下のケース
配偶者控除は、配偶者が引き継ぐ財産が1億6,000万円以下または法定相続割合以下の場合活用できます。被相続人が資産家で、残された相続財産が多い場合、配偶者が相続する財産が1億6,000万円を超える場合もあるでしょう。このような場合も、法定相続割合におさまれば非課税で相続可能です。
例えば、相続財産が5億円で法定相続人が配偶者と子供2人と仮定します。この場合、配偶者の法定相続割合は2分の1なので2億5,000万円までであれば非課税で相続できます。
実際にどれくらいの相続税が非課税で相続できるのかを説明します。
相続税を計算する際には、実際の相続財産から基礎控除額を差し引きます。今回の場合、法定相続人は3人なので基礎控除額は4,800万円【3,000万円+(法定相続人3人×600万円)】です。
相続税を計算する際には、5億円から基礎控除額4,800万円を差し引いた4億5,200万円で実際にかかる相続税を計算します。4億5,200万円を法定相続割合で分けると下記のとおりです。
配偶者 2億2,600万円
子供A 1億1,300万円
子供B 1億1,300万円
それぞれに相続税率をかけて計算します。
法定相続分に応ずる所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
出典:国税庁「No.4155 相続税の税率」
配偶者 2億2,600万円×45%-控除額2,700万円=7,470万円
子供A 1億1,300万円×40%-控除額1,700万円=2,820万円
子供B 1億1,300万円×40%-控除額1,700万円=2,820万円
算出した相続税を足し合わせると、相続税全体額がわかります。
7,470万円+2,820万円+2,820万円=1億3,110万円
ここまでの計算過程(相続税の総額を算出)では、実際の財産の分け方は考慮しません。仮に配偶者が全く財産を相続しない場合であっても、反対に配偶者が全て相続する場合でも、ここまでの計算過程は変わりません。
次に、相続税全体額を「実際に相続する割合」に分けます。仮に法定相続分通りに財産を分ける、ということを相続人間で決めた場合には、下記の通りです。
配偶者 1億3,110万円×2分の1=6,555万円
子供A 1億3,110万円×4分の1=3,278万円
子供B 1億3,110万円×4分の1=3,278万円
本来、配偶者にかかる相続税額6,555万円ですが、法定相続割合で相続するため非課税で相続することが可能です。
➁配偶者の相続財産が1億6,000万円以下のケース
相続財財産が2億円残されており、法定相続人は配偶者と子供2人と仮定しましょう。
このケースでは、【3,000万円+(法定相続人3人×600万円)】で基礎控除額が4,800万円なので相続税が発生します。しかし、配偶者が相続する財産に関しては1億6,000万円までは非課税で相続可能です。
今回は法定相続割合ではなく、遺産分割協議で配偶者が1億5,000万円、子供たちはそれぞれ2,500万円相続することになったと仮定しましょう。
相続税の計算はまず、課税財産を法定相続割合で相続したと仮定して相続税を計算した後に、実際に相続する割合で相続税を分けます。
今回のケースは、2億円から基礎控除額4,800万円【3,000万円+(法定相続人3人×600万円)】を差し引いた1億5,200万円に対して相続税がかかりますので、法定相続割合に従い計算します。(※配偶者の法定相続割合は2分の1、子供の法定相続割合はそれぞれ4分の1)
配偶者 7,600万円
子供A 3,800万円
子供B 3,800万円
それぞれに相続税率をかけて、相続税を計算します。
配偶者 7,600万円×30%-控除額700万円=1,580万円
子供A 3,800万円×20%-控除額200万円=560万円
子供B 3,800万円×20%-控除額200万円=560万円
相続税をすべて合算すると1,580万円+560万円+560万円の2,700万円です。
今回の相続では、配偶者の相続割合が4分の3、子供たちがそれぞれ8分の1ずつ相続します。2,700万円を実際の相続割合で計算すると、下記の内容になります。
配偶者 2,700万円×4分の3=3,600万円
子供A 2,700万円×8分の1=338万円
子供B 2,700万円×8分の1=338万円
本来配偶者にかかる相続税は3,600万円ですが、配偶者が引き継ぐ相続財産が1億6,000万円以下なので非課税で相続できます。
配偶者控除を利用すると子供にデメリットがある可能性も
配偶者控除を利用すれば、配偶者が相続する部分についてほとんどの場合は非課税で相続できます。しかし、相続は二次相続まで考えて行う必要があります。二次相続では基礎控除を計算する法定相続人の人数が減るので控除できる金額が減ってしまうからです。それに加えて、二次相続では両親2人分の財産を合算して引き継ぐことになるので、子供たちが相続する金額が増え、相続税率も上がってしまうこともあります。その結果、相続全体で子供が支払う相続税額が増えてしまうことが多いです。
例えば、父の相続(一次相続)と母親の相続(二次相続)を子供2人が相続するケースで説明します。父親の財産は1億円、母親の財産は1億円と仮定しましょう。
一次相続で母親が配偶者控除を利用して100%相続するケース
一次相続で配偶者控除を利用し、母親がすべて相続する場合、子供の相続税は0円です。
二次相続では母親が一次相続で父親から相続した1億円を合わせて2億円を子供2人が相続することになります。
この場合、2億円から【3,000万円+(法定相続人2人×600万円)】基礎控除額4,200万円を差し引いた1億5,800万円を子供1人当たりに分けて相続税を計算します。
子供A 7,900万円×30%-700万円=1,670万円
子供B 7,900万円×30%-700万円=1,670万円
実際に子供たちにかかる相続税額は、相続全体を通してそれぞれ1,670万円になります。
一次相続は法定相続割合で相続するケース
一方、一次相続で法定相続割合に従い母親が5,000万円と子供たちがそれぞれ2,500万円相続したケースで考えてみましょう。
まず、1億円から【3,000万円+(法定相続人3人×600万円)】基礎控除額4,800万円を差し引いた5,200万円を法定相続割合で分けて相続税額を計算します。
配偶者 2,600万円×15%-50万円=340万円
子供A 1,300万円×15%-50万円=145万円
子供B 1,300万円×15%-50万円145万円
相続税の合計金額は340万円+145万円+145万円の630万円です。これを実際の相続割合で計算すると法定相続人それぞれの相続税は下記のとおりです。
配偶者 630万円×2分の1=315万円
(※配偶者控除を利用するので、実際に母親が支払う相続税は0円)
子供A 630万円×4分の1=158万円
子供B 630万円×4分の1=158万円
一次相続では子供たちは法定相続割合に従い、2,500万円ずつ相続税158万円を支払って相続します。
二次相続では、母親が一次相続で引き継いだ5,000万円と母親の財産1億円の合計1億5,000万円を子供2人で相続します。
1億5,000万円から【3,000万円+(法定相続人2人×600万円)】基礎控除額4,200万円を差し引いた1億800万円で相続税を計算しましょう。
子供A 5,400万円×30%-700万円=920万円
子供B 5,400万円×30%-700万円=920万円
二次相続で子供たちは、それぞれ7,500万円ずつを相続税920万円支払って相続します。子供1人の相続税額は一次相続158万円と二次相続920万円をあわせて1,078万円です。
子供たちが相続全体で引き継ぐ財産は1億円と変わりありません。しかし、母親が一次相続で配偶者控除を利用して100%相続する場合の相続税は1,670万円なので、一次相続も法定相続割合で相続した方が592万円も相続税の支払いを圧縮できました。このとおり、一次相続の配偶者控除の使い方により、相続全体で支払う相続税額に大きな差が出ることがわかります。相続全体を考えて配偶者控除を利用する分について決めるほうがよいでしょう。
配偶者控除を受けるために必要な資料と申請方法
配偶者控除を受けるためには、相続税申告書に合わせて「配偶者の税額軽減額の計算書」という資料を作成して添付します。そのほかに必要となる書類としては、登記簿謄本、印鑑証明書、遺言書の写し、または遺産分割協議書の写しなどです。相続内容によって必要になる書類は異なるので、自分で申告するのが不安な場合には申告を税理士などの専門家に任せるのがおすすめです。
相続税の申告は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10カ月以内です。従って、配偶者控除を受けるためには基本的にこの期間に申告が必要になります。
相続税の申告は税務署へ行います。どの税務署に提出してもいいわけではなく、被相続人が亡くなった時の住所地の管轄税務署に申告します。
出典:国税庁「No.4158 配偶者の税額の軽減」
申告期限が過ぎても控除が利用できるケース
遺産分割協議が難航するなどして、期日内に配偶者の相続内容が決まらないこともあるでしょう。具体的には、法定相続人間で相続内容について揉めた、海外に法定相続人がいて協議ができないなどがあります。
このようなケースでは、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておけば、相続税の申告期限から3年間であれば遺産分割が決まった日から4カ月以内に更正の請求を行うことで配偶者控除の適用を受けられます。
まとめ
相続税の配偶者控除を利用すると、配偶者は相続財産の「1億6,000万円まで」または「法定相続分まで」が非課税で相続可能です。そのため、被相続人がよほどの資産家で、配偶者が法定相続分以上に相続するケース以外は相続税を支払う必要はありません。
ただし、安易な気持ちで相続税の配偶者控除を100%利用すると、二次相続まで含めた相続全体で相続税を支払いすぎてしまう危険性があります。そのため、配偶者控除を利用する際には、相続全体にかかる相続税をシミュレーションするのがおすすめです。
また、相続税の配偶者控除を利用することにより、相続税が一切かからないこともあります。しかし、配偶者控除を利用するためには期日までに相続税の申告が必要です。特に遺産分割協議により相続内容を決める際は、期日に遅れないようにスケジュールを調整し、相続内容を決めていきましょう。
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