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家族信託と後見制度違いは何?それぞれの制度でできること・できないことを解説

2023.02.21 生前対策 家族信託と後見制度違いは何?それぞれの制度でできること・できないことを解説

この記事を監修したのは、

代表 寺島 能史

所属 司法書士法人みどり法務事務所 東京司法書士会 会員番号 第6475号 認定番号 第901173号 資格 司法書士

財産を所有している親が、認知症などにより判断能力が低下すると、その財産の処分が困難になってしまいます。このような事態に備える制度としては、「家族信託」・「成年後見制度」が挙げられます。「家族信託」、「成年後見制度」は財産の所有者以外が財産を管理する点は共通ですが、管理者の権限や制度利用の終了方法等、その内容は大きく異なります。

本記事では、家族信託、成年後見制度それぞれの概要やどちらの制度を利用すべきかなどを解説していきます。

家族信託とは?

家族信託の仕組み

家族信託は、端的に言えば所有者から「財産を管理する名義」と「財産から利益を受ける権利」を分離させる制度です。

もう少し詳しく説明すると、まず、家族信託の当事者は次の三者です。

  • 委託者 財産の所有者で、財産の管理権限を受託者に任せる者
  • 受託者 財産の管理を任される者
  • 受益者 受託者の財産管理により発生した利益を受け取る者

委託者は、自身の財産の中から信託したい財産を選び、受託者となる予定の家族と家族信託契約を締結します。これにより、財産から「権利」と「名義」が分かれることになり、受託者が財産の名義人となり財産を管理処分し、それによる利益を受ける権利は受益者に属することになります。

なお、委託者と受益者は同一人物でも問題はありません。

メリット

 

①認知症の備えになる(委託者の意思能力が財産の管理権に影響しない)

親が認知症になってしまった場合、親の財産を自由に処分することはできなくなります。しかし、親に意思能力があるうちに家族信託をしておけば、資産は凍結されず、受託者は従前通りに財産を管理処分することが可能です。

たとえば、親が認知症になったため、親が住んでいた不動産を売却して施設の入居費用に充てる、といったことも可能になります。

 

②柔軟な取り決めが可能

成年後見制度は、家庭裁判所が後見人を選定し、財産処分にも裁判所の許可が必要な場合があります。これに対し家族信託は、委託者が自由に受託者、管理を任せる財産を自由に選ぶことができるため、本人の意思を十分に反映させることが可能です。

また、受託者は、委託者から裁量が与えられていれば、成年後見では認められない投資などの財産を増やすような積極的な経営管理も可能となります。

 

③遺言書の代わりになる

遺言書は民法で方式が定められており、これに反した場合は無効となります。また、遺言書が有効であっても、その内容に納得がいかない相続人同士が争う場合があります。

この点、家族信託は契約なので遺言ほど厳格な様式は要求されず、生前に行うため、家族と十分に話し合うことが可能です。

なお、家族信託と遺言書の内容が異なる場合、原則として家族信託の内容が優先されます。

 

④二次相続への対策

遺言書では相続させる財産の割合等を指定できますが、これが可能なのは自身が死亡した場合の一時相続の内容のみです。たとえば、子供のいない家庭で、先祖代々の土地を配偶者の兄弟姉妹に相続してほしくない場合、遺言書では、配偶者に相続が生じた場合の内容までは指定できません。

家族信託であれば、委託者が死亡した場合の受益権の移転先も指定することが可能で、前述のケースであれば、委託者自身の兄弟姉妹を二次受益者とすることにより、意思にそぐわない二次相続への対策が可能となります。

 

⑤倒産隔離機能がある

受託者にはあくまで財産を管理処分する名義があるだけなので、仮に受託者が破産した場合でも受託者の債権者は信託財産に対し強制執行をすることができません。

また、委託者が破産した場合でも、名義は受託者にある以上、委託者の債権者も信託財産から回収することができません。

このような機能を「倒産隔離機能」と呼びます。

ただし、委託者と受益者が同一の場合、債権者は受益権に対して執行はできることと、信託法の規定で債権者を害する目的の信託は債権者が取り消せる点には注意です。

デメリット

 

①節税効果は期待できない

家族信託には相続税を節約するような効果はありません。委託者と受益者が異なる場合、受益者は財産を取得したとみなされて贈与税が課されるため、場合によっては逆に負担になります。

 

②当事者を長期間拘束する

上述の通り、家族信託では二次相続も指定可能なため、契約が成立すれば当事者を長期間拘束することになります。特に受託者には収支報告書などの書類を作成し、それらを一定期間保存する義務もあるため、信託契約を締結しようとする場合は、家族間で十分に話し合うことが必要です。

 

③制度が成立してからあまり時間がたっていない

家族信託制度は、平成18年の法改正によりスタートし、法制度としてはまだ新しいといえます。

そのため、判例が少ないため法解釈が確立していない部分があり、専門家による制度利用はいまだ消極的です。

 

④受託者に成年後見のような身上監護権はない

受託者に認められるのは財産の権利処分に留まり、委託者を身上看護する権利はありません。そのため、成年後見制度とは異なり、受託者は、委託者に代わって医療・看護に関する契約を行うことができないのです。

成年後見制度とは?

成年後見制度の仕組み

成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害等により判断能力が不十分な方々の財産を保護する制度です。

認知症などにより判断能力が低下すると詐欺等の悪質な被害を受ける恐れがあるため、家庭裁判所が選任した成年後見人が、本人に代わって契約や財産管理を行います。

成年後見人の役割

成年後見人の役割は、大きく「身上看護」と「財産管理」に分けられます。

 

①身上看護

本人の収入・財産を把握し、医療費や税金等の必要な支出の見積もりを出したうえで、中長期的な見通しで療養看護の計画と収支の予定を立てます。必要であれば、本人のために介護施設やデイケアセンター等の入退所契約といった法律行為を行います。

 

②財産管理

成年後見人は、選任されるとまずは本人の財産を調査し、財産目録を作成して家庭裁判所に提出します。その後は、本人の収入と支出について金銭出納帳により記録し、財産の現状維持を基本として本人の生活資産を保全します。

成年後見人が、本人の不動産の売却等大きな財産を処分するには家庭裁判所の許可が必要となり、不適切な財産処分行為が行われば民事・刑事上の責任を追及されることになります。

成年後制度の種類

成年後見制度は、「法定後見制度」と「任意後見制度」に分けられます。

 

①法定後見制度

認知症等により本人の判断能力が不十分となった後に、親族等が家庭裁判所に後見開始の申し立てを行い、家庭裁判所が成年後見人等(成年後見人・補助人・保佐人)を選任します。

選任された後見人は、法で定められた範囲で本人のために契約の締結・取消等を行うことができます。

 

②任意後見制度

本人が十分な判断能力を有している段階で、あらかじめ任意後見人になる者、その者に将来委任する事務行為の内容を定めておき、本人の判断能力が不十分となった後に、任意後見人が定められた事務行為を行う制度です。

法定後見と異なり、後見人が代理できるのは任意後見契約で定められた範囲で、本人が締結した契約を取り消すことはできません。

メリット

 

①銀行預金等の本人の財産を動かせるようになる

銀行は、名義人が認知症であることが判明すると、詐欺等のトラブルから名義人を保護するために口座を凍結します。

しかし、成年後見人が選任されたことを銀行に届け出れば、口座が凍結された後であってもこれが解除され、成年後見により財産管理の範囲で財産を動かせるようになります。

 

②財産の管理により使い込みを防止できる

成年後見人が選任されたことが銀行に届け出られると、本人の口座には後見の設定が行われ、通帳の名義は本人と成年後見人の連名となり、口座が成年後見人の管理下にあることが明らかとなります。

これにより、本人の口座からは成年後見人以外は引き出せなくなるため、本人と同居の家族等が預金を引き出して使いこむなどの事態を防止できます。

 

③施設の入居契約等の本人に必要な手続きを代わりに行ってもらえる

認知症等により判断能力が低下した状態だと、法律上、本人自身のために必要であっても契約を締結することはできません。

しかし、成年後見人であれば、本人のために代わって契約を締結することができます。

 

④本人が不利益な契約をした場合でもこれを取り消せる

本人が、判断能力の低下により悪質な訪問販売業者等に騙され、不利益な契約を締結してしまった場合でも、成年後見人が選任されていれば、本人に代わって契約を取り消し代金や引き渡した品物の返還を請求することができます。

 

⑤地位が公的に証明される

成年後見人が就くとその旨が登記されるため、その地位が公的に証明されることになります。

デメリット

 

①制度の利用のためには手続きに手間と費用がかかる

成年後見の申立てには多くの必要書類があり、収集と準備に手間がかかります。そのため、手続きをスムーズに進めるために知識がある専門家に依頼することが有効ですが、その場合は10万~20万の報酬が必要となってしまいます。

さらに、成年後見人が選任されれば、後見が継続する限り月額で報酬がかかるため、最終的に相当な費用負担となってしまいます。

 

②生前贈与などの相続対策ができなくなる

生前の相続対策として、生前贈与により将来の相続税を抑える方法がありますが、成年後見人が選任されると本人の居住用不動産の処分には裁判所の許可が必要となり、生前贈与のような本人の財産が減少する行為は基本的にできなくなります。

 

③原則として途中でやめることができない

成年後見人が選任されれば、本人の意思能力が保護を必要としない程度に回復しない限り、後見開始の審判は取り消されません。

そのため、本人が亡くなるまでは費用の発生・自由な財産処分ができないという点は受け入れなければなりません。

家族信託・成年後見制度でできること

家族信託で受託者ができること

家族信託では、受託者は以下のような行為が可能です。

  • 信託口座からの現金の引き落とし
  • 収益不動産の管理・保守・修繕
  • 信託財産の売却
  • 信託財産を担保とした借入
  • その他、信託契約によっては不動産の購入や借入も可能

このように、受託者は信託目的の範囲内であれば、財産の管理運用について大きな権限を与えられており、この点が成年後見との大きな違いです。

成年後見制度で成年後見人ができること

成年後見では、成年後見人は以下のような行為が可能です。

  • 本人が施設に入居するための手続きを行う
  • 病院の入退院の手続き
  • 本人に代わって財産を管理する
  • 本人が行った法律行為を取り消す

成年後見制度はあくまで本人を保護することが目的であるため、成年後見人に求められるのは、財産を維持することです。

財産を処分するような行為には裁判所の許可が必要で、たとえ、施設の入居費用に充てるためでも本人の居住不動産を売却するような積極的な行為は認められにくいです。

家族信託が適しているケース

家族信託と成年後見制度の利用を考えている場合、本人の判断能力に問題がないのであれば成年後見制度を利用することはできないので、家族信託の検討をお勧めします。特に、以下のような場合は家族信託の方が適しています。

柔軟に財産管理をしたい場合

柔軟に財産を管理したいのであれば家族信託が適しています。家族信託は契約であるため、その内容を当事者が決められます。また、受託者の権限によっては、成年後見人には行えない、株式投資や不動産の売却・改修のような積極的な行為が可能で、かつ家庭裁判所が関わらないため許可も不要です。

相続についても考えておきたい場合

後見制度では本人に判断能力が認められないため、相続人の指定などはできません。

これに対し家族信託は、自身が亡くなった時の相続人と、その次の財産の承継先を決めておく遺言的な機能を有しています。

ただし、相続人には、「遺留分」という最低限保証されている相続割合が認められています。家族信託であっても、一部の相続人の遺留分を害するような内容の場合は、遺留分を侵害したとして無効とされる恐れはある点には注意です。

できるだけ費用をかけたくない場合

家族信託では、契約が成立すれば受託者に対する報酬等のランニングコストは発生しません。

成年後見制度では、一度成年後見人が就くと原則として本人が亡くなるまでは制度は終了せず、その間、成年後見人に対する報酬が発生し続けます。

そのため、費用の面では家族信託の方が節約できます。

成年後見制度が適しているケース

続いて、成年後見制度の方が適しているケースです。

生涯サポートが必要になる場合

既に本人の判断能力が低下しており、長期にわたって本人のサポートが必要な場合は成年後見制度が適しています。

財産管理が主な目的の家族信託とは異なり、成年後見任意は本人に対する身上看護が可能であるため、施設の入所手続きや病院での手続き等、財産以外の面で本人のサポートが可能です。

頼れる親族がいない場合

成年後見人は原則として家庭裁判所が選任し、そのほとんどは弁護士や司法書士などの専門家が選ばれます。そのため、身近に頼れる親族がいなくても、専門家による適切な身の上看護、財産管理を受けることができます。

まとめ

以上が、家族信託と成年後見制度の概要とその違いです。

家族信託は、受託者に広い権限が認められるため柔軟な財産管理が可能で、成年後見制度は本人の保護が主たる目的であるため、家族信託のような柔軟な財産管理はできませんが、本人のための身上看護が可能です。

これらの制度は内容・目的が大きく異なるため、十分に違いを理解したうえで利用しましょう。もし、どちらの制度を利用するか決めかねているのであれば、一度司法書士にご相談ください。

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