生前贈与の方法を工夫すれば税金が安くなる!現金・不動産・株を贈与するときの注意点
2023.03.30 税金対策財産を生前贈与してかかる贈与税は、贈与の方法を工夫すれば贈与税が安くなる場合があります。財産を贈与された人が払う税金が安くなれば、活用できる財産が増えるので、生前贈与をする際には節税について十分に検討しておきたいところです。
この記事では、生前贈与の手続きの流れや税金を安くする方法、不動産や現預金、株式を生前贈与するときの注意点も紹介します。
目次
相続まで待たずに生前贈与で財産を渡したほうが良いケースとは
財産を親族に無償で渡すには、「生前贈与」と「相続」の2つの方法があります。家族や財産の状況によっては、相続まで待たずに生前贈与で財産を渡すほうが良いケースがあります。
財産の総額が相続税の基礎控除額を上回る場合
遺産額が相続税の基礎控除額を上回る場合、原則として相続税がかかります。
基礎控除額とは「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で求めた金額です。
財産を生前贈与すれば、将来相続が発生したときの遺産額が減って相続税の節税になります。遺産額を基礎控除額以下にできた場合、相続税はかからず申告の手続きも不要です。残された家族の税負担や手続き面での負担を軽減できます。
特定の人に財産を渡したい場合
贈与は贈与者(贈与する人)と受贈者(贈与される人)が合意すれば成立するので、特定の人に財産を確実に渡したい場合に適しています。
遺言書を作成して特定の人に財産を渡すこともできますが、他の相続人が遺言内容に不満を抱いて相続トラブルになった場合、財産を渡したい相手が他の相続人とのトラブルに巻き込まれて、手続き面でも精神面でも負担になる場合があるので注意が必要です。
自分の死後、遺言の内容どおりに本当に財産がその人に渡るのか不安であれば、生前贈与によって確実に渡す方法を選択しても良いでしょう。
財産を子や孫に早く渡して活用してほしい場合
子がマイホームを建てるときに土地を贈与したり、孫が進学して教育費がかかるタイミングに現預金を贈与したりすれば、相続まで待って渡すよりも財産を有効に活用してもらえます。生前贈与は、贈与するタイミングを自由に選べる点がメリットです。
相続で財産を受け継ぐ場合は、例えば子が既にマイホームを持っている中で田舎にある実家の土地や家を相続しても、使い道がなく困る場合のように、相続人が遺産を相続しても活用方法がなくて困ることがあります。
財産を生前贈与するときの手続きの流れ
生前贈与では贈与契約書を作成して、必要に応じて名義変更や税金の申告・納税の手続きを行います。単に財産を相手に渡せば終わるわけではありません。
以下では生前贈与の方法を紹介します。実際に財産を贈与する場合は、手順を踏んで行うようにしてください。
誰に何の財産を贈与するのか、贈与の目的や内容を明確にする
相続税の節税を目的として生前贈与をする場合、贈与税がかかって税負担が増えては意味がないので、贈与税の節税も意識しながら生前贈与の方法を検討します。贈与税が安くなる特例制度については後述しますが、非課税の特例制度の要件を満たすように贈与の内容を調整しても良いでしょう。
相続税対策ではなく、相手が資金を必要としていて現預金を贈与するような場合は、相手が必要としている額だけでなく、贈与税の納税額も考慮して贈与額を決定します。
仮に相手が1,000万円の資金を必要としている場合、1,000万円を贈与しても贈与税231万円の支払いが必要になると納税後には769万円しか使えません。そのため、1,000万円だけでなく納税資金も含めて贈与する必要があります。
また、将来相続人になる人(推定相続人)に財産を生前贈与する場合は、他の相続人の遺留分(遺産の一定割合を相続する権利)に注意が必要です。将来相続トラブルになる可能性があり、特定の人に生前に確実に財産を渡したい場合でも、他の相続人の遺留分を侵害すると、逆に生前贈与が相続トラブルの原因になる場合があります。
贈与契約書を作成する
贈与は法律上、贈与者と受贈者が口頭で合意しただけでも成立します。しかし口頭で確認しただけだと、後々に認識相違が生じても贈与契約の内容を確認できずトラブルになることがあるので、贈与契約書は必ず作成するようにしてください。
贈与契約書では「誰が・誰に・いつ・何を・どのような方法で」贈与するのか、明確に記載することがポイントです。
現預金の贈与であれば、上記のひな形のように贈与額を記載すれば問題ありませんが、土地を贈与した場合には「甲が乙に土地を贈与する」とだけ記載すると、どこにある土地を贈与するのか分からず、契約書として意味をなしません。
一般的に土地であれば所在地・地番・地目・地積を、建物であれば所在地・家屋番号・種類・構造・床面積を贈与契約書に記載するので、贈与対象の不動産の登記事項証明書をあらかじめ取得しておきましょう。捺印では実印を使い、2通作成して贈与者・受贈者それぞれで1通ずつ保管します。
財産の引き渡しや名義変更の手続きを行う
現金の贈与は手渡しではなく銀行振込で行います。現金を手渡しで贈与すると履歴が残らず、後々に相手から「まだ受け取っていない」と言われてトラブルになる可能性や使途不明金として税務署から疑いをかけられる可能性があるからです。
土地や建物など不動産の生前贈与では名義変更の手続きが必要になるので、不動産の所在地を管轄する法務局で登記を行います。登記のやり方については「不動産登記とは?自分でできる? 手続きの流れや費用を紹介」で詳しく解説していますが、手続きの方法がよく分からない場合は司法書士に依頼しても良いでしょう。
贈与税の申告・納税を行う
生前贈与では、以下の式で計算した額の贈与税がかかります。
- (1年間に贈与された財産額 – 110万円) × 税率 – 控除額
贈与額が年110万円以下であれば贈与税はかからず申告・納税の手続きは不要ですが、逆に贈与税がかかる場合は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に申告・納税の手続きが必要です。
贈与税の申告書は国税庁サイトからダウンロードでき、受贈者の住所地を管轄する税務署に申告書を提出します。納期限に遅れると罰金を科されてしまうので、贈与税の申告や納税の方法がよく分からない場合は税理士に相談するようにしてください。
関連記事「贈与税とは?生前贈与で節税する方法も紹介!」
現預金を生前贈与するときの手続き方法と注意点
現預金は土地や建物、株式などと違い、金額の調整がしやすく名義変更が不要で手続き面で楽なので、生前贈与をする際の財産として選ばれることが多い財産のひとつです。
ただし、現預金の生前贈与では気を付けるべき点がいくつかあります。生前贈与の方法を間違えると税金が高くなる場合があるので注意が必要です。
生前贈与が否認されないように現金手渡しではなく銀行振込にする
生前贈与によって遺産額を減らして相続税を節税したつもりでも、税務署によって生前贈与が否認されてしまうと、贈与された人の財産ではなく亡くなった人の財産と見なされてしまい、相続税の課税対象になる場合があります。
相続が起きたときに生前贈与が否認されないためには、財産を贈与した履歴を残しておくことが大切です。贈与契約書を作成するとともに、現金手渡しではなく銀行振込にすることで振込履歴を残すようにしましょう。
名義預金と見なされないように贈与財産は受贈者が管理する
子や孫の名義で預金口座を作って自分のお金を振り込んだ場合、子や孫への贈与が成立して将来の相続財産が減るのかというと、そうではありません。そもそも贈与が成立するためには、財産が受贈者の物となって受贈者が管理・使用できる状態にある必要があります。
預金口座の名義がその人になっているだけで、実際には別の人が預金を管理している「名義預金」であれば、受贈者が財産を贈与されて管理しているとは言えず、贈与自体が成立していません。
名義預金と見なされると、相続が発生したときに故人の財産として相続税の課税対象になってしまいます。贈与した財産が贈与者ではなく受贈者の物であることが分かるように、受贈者が贈与財産を管理することが大切です。
家や土地など不動産を生前贈与するときの手続き方法と注意点
不動産を生前贈与する場合、現預金の生前贈与とは違って登記が必要です。また、税金面では贈与税以外の税金が課税されます。
法務局で登記をする必要がある
不動産の所有者情報は、法務局が管理する登記簿に記載されています。生前贈与によって不動産の所有者が贈与者から受贈者に変わる場合、登記簿上の所有者を受贈者に変更するため登記が必要です。家や土地を生前贈与する場合、次のような流れで手続きを進めます。
- 1.必要書類を揃える
- 2.登記申請書を作成する
- 3.管轄の法務局に書類を提出して登記申請を行う
- 4.登記識別情報通知(権利証)を受け取る
登記申請書は法務局のサイトからダウンロードできます。また不動産の生前贈与では主に以下の書類が必要になります。
| 必要書類 |
贈与者 | ・登記済権利証(または登記識別情報通知) ・印鑑証明書 ・固定資産評価証明書 |
受贈者 | ・住民票 |
その他 | ・贈与契約書 |
登記をせず受贈者が所有者として登録されていないと「売却や担保権の設定ができない」「第三者に対して権利を主張できず対抗できない」など、不利益を被る可能性があります。そのため、不動産の生前贈与では速やかに登記を行うことが大切です。
関連記事:土地の名義変更は自分でできる?司法書士に頼む?費用や必要書類を紹介
登録免許税や不動産取得税がかかる
家や土地の生前贈与では、贈与税以外に登録免許税や不動産取得税もかかるため、現預金の生前贈与に比べると受贈者の費用負担は重くなる傾向にあります。不動産だけを贈与すると受贈者が税金の支払いで困る場合は、納税資金に充てるための現預金も合わせて贈与することを検討してみてください。
登録免許税は不動産の価格に税率2%をかけた金額、不動産取得税は不動産の価格に税率3%(住宅以外の家屋は4%)をかけた金額です。ただし、生前贈与で取得する不動産が宅地の場合は、不動産取得税を計算する際に土地の価格の2分の1の額に税率をかけ合わせます。
登録免許税は法務局で登記をする際に納付し、不動産取得税は都道府県で申告・納税の手続きを行います。不動産取得税の納期限は、不動産を取得してから10日以内や30日以内など、都道府県によって異なるので個別に確認するようにしてください。
株式を生前贈与するときの手続き方法と注意点
株式を生前贈与する場合、現預金の生前贈与とは違って名義変更の手続きが必要になります。また、株価の変動リスクによって受贈者が損失を被る可能性がある点にも注意が必要です。
上場株式と非上場株式では手続きの流れが異なる
上場株式を贈与する場合は、贈与者がその株式を保有している証券口座から受贈者の証券口座に株式を移管する手続きが必要になります。移管の手続きは証券会社経由で行うので、まずは、贈与者が株式を保有している証券会社に連絡して手続き方法を確認してください。受贈者がその証券会社に口座を持っていない場合は、口座開設の手続きが必要です。
非上場株式を贈与する場合は、発行元の会社に連絡して株主名簿の書き換えを依頼します。譲渡制限のある株式の場合には贈与することを会社に承認してもらう必要があるので、発行元の会社に対して譲渡承認の請求を行います。
贈与後に株価が下がって受贈者が損失を被る場合がある
株価が高いときに贈与して贈与後に株価が下がると、贈与財産としての価値が高く計算されるために受贈者が負担する贈与税が高くなり、株価の下落によって受贈者が損失を被ることになります。
一方、株価が低いときに贈与して贈与後に株価が上がった場合は、受贈者が負担する贈与税が安くなる上に値上がりによって利益を得られます。そのため、株式を生前贈与するときには、株価の値動きを踏まえて贈与する時期を決めましょう。
生前贈与で税金を安くする方法
財産を生前贈与すると贈与税の課税対象になりますが、贈与するときの方法を工夫すれば、贈与する財産の金額が同じでも贈与税を安く抑えられる場合があります。以下では主な節税方法を紹介するので、生前贈与を検討中の方は実際に活用できる方法がないか確認してみてください。
贈与額を年間110万円以内にする
贈与税は、贈与額から基礎控除額110万円を引いた上で税率をかけて計算するので、1年間の贈与額を110万円以内にすれば贈与税はかかりません。
例えば、成人の孫に300万円をまとめて贈与すると19万円の贈与税がかかりますが、3年間かけて各年に95万円・100万円・105万円を贈与した場合は、いずれの年も贈与額が110万円以内なので贈与税がかからずに済みます。
生前贈与の方法を工夫するだけで19万円も節税でき、納税後に孫の手元に残る額がこの分だけ増えることになります。
住宅取得等資金の贈与の特例制度を活用する
子や孫に住宅を新築・購入するための資金を贈与する場合、贈与税の特例制度を使えれば、省エネ等住宅の場合は1,000万円まで、それ以外の住宅の場合は500万円まで贈与税がかかりません。
特例制度を使えるのは直系尊属(父母や祖父母など)から18歳以上の直系卑属(子や孫など)に贈与する場合です。贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅取得等資金の全額を充てて、住宅用家屋の新築等をする必要があります。
年末に贈与すると翌年3月15日までの期間が短く、万一住宅の新築等が間に合わないと特例制度の要件を満たさず贈与税が高くなる場合があるので、贈与を行う時期に注意してください。
教育資金の一括贈与の特例制度を活用する
子や孫に教育資金を贈与する場合、贈与税の特例制度を使えれば、学校等に支払う金銭は1,500万円まで、それ以外の金銭は500万円まで贈与税がかかりません。
特例制度を使えるのは直系尊属(父母や祖父母など)から30歳未満の直系卑属(子や孫など)に贈与する場合です。学校に払う入学金や授業料、保育園に払う入園料や保育料、学用品の購入費、学校給食費などが対象となります。
当特例制度を使うためには、教育資金を管理するための口座の開設が必要です。教育資金を贈与した後に口座を開設しても非課税にはならないので、金融機関で手続きをして口座を作るようにしてください。
結婚・子育て資金の一括贈与の特例制度を活用する
子や孫に結婚資金や子育て資金を贈与する場合、贈与税の特例制度を使えれば、結婚に関する金銭は300万円まで、子育てに関する金銭は1,000万円まで贈与税がかかりません。
特例制度を使えるのは直系尊属(父母や祖父母など)から50歳未満の直系卑属(子や孫など)に贈与する場合です。挙式費用や転居費用、不妊治療・妊婦健診に要する費用や分べん費、産後ケアに要する費用、子の医療費、幼稚園・保育所等の保育料などが対象になります。
当特例制度を使うためには、結婚・子育て資金を管理するための口座の開設が必要です。結婚・子育て資金を贈与した後に口座を開設しても非課税にはならないので、あらかじめ金融機関で手続きをして口座を作るようにしてください。
夫婦間で居住用不動産を贈与したときの配偶者控除を活用する
配偶者に居住用の不動産を贈与する場合や居住用の不動産を取得するための資金を贈与する場合、贈与税の配偶者控除を使えれば2,000万円の贈与まで贈与税がかかりません。
特例制度を使えるのは、婚姻期間が20年以上の夫婦間で行われる贈与です。贈与を受けた年の翌年3月15日までに贈与で取得した居住用不動産、または贈与を受けた金銭で取得した居住用不動産に受贈者が住んでおり、その後も住む見込みであることが条件となります。
なお不動産を相続で配偶者に渡す場合、配偶者は1億6,000万円の遺産相続まで相続税がかかりません。相続で不動産を配偶者に渡しても税金がかからずに済むケースが多いので、節税が目的であれば生前贈与で渡す必要性は高くありませんが、生前に確実に不動産を配偶者に渡しておきたい場合には、贈与税の配偶者控除を活用して渡しても良いでしょう。
まとめ
相続税の課税対象になる遺産を減らして節税をしたい場合や特定の人に確実に財産を渡したい場合、子や孫に早く財産を渡して活用してもらいたい場合には、相続まで待たずに財産を生前贈与することを検討してみましょう。
財産を生前贈与すると贈与税の課税対象になりますが、今回ご紹介したように贈与の方法を工夫したり特例制度を活用したりすることで、贈与税を安く抑えられる場合があります。
ただし、生前贈与をするときには贈与契約書を作成し、現金手渡しは避けて銀行振込にして履歴を残すなど、気を付けるべき点も多いです。生前贈与の方法を間違えると、現預金や不動産、株式の贈与後に問題が起きる場合があるので注意しましょう。このように節税や財産の有効活用など、生前贈与を損せず、スムーズに行なうためには専門的な知識が必要です。
当事務所では、皆様になるべくストレス無く相続を済ませていただくために、定額の相続登記代行サービス「スマそう-相続登記-」をはじめとする、相続に関する各種サポートを行っています。生前贈与についてもご相談を受け付けていますので、まずはお気軽にお問い合わせください。
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